1対1


すごく気になる子がいる。同じクラスで、野球部で、キャッチャーやってる、ちょっと(?)無愛想な男の子。


「委員長やる人!」


先生の言葉に、答える人はいなかった。当然委員長なんて面倒くさい仕事、誰もやりたがらない。私だってやりたくないし、もっと適任者がきっといる、って思う。


「じゃあ、めんどくさいからみんな自分のやりたい委員に名前書きに来て!ちなみに全員何かしらの委員にあたるからね!」
「「えぇーーー?」」


クラス中からブーイング。先生は平等平等、とか言ってるけど、こういう所は平等じゃなくていいと思う。と、多分みんな思ってることだろう。


私は、黒板に書かれた委員をざっと見渡した。


上から、『学級委員長・副委員長』『HR運営委員 4人』『代議委員』『保健委員』『体育委員』『図書委員』『国語連絡係り』……一番最後は『号令係り』で締めくくられている。


何にしよう。体育委員になると、女子全員の前でラジオ体操の先導をしなきゃいけなくなるし、保健委員になるとゴミ拾いに行かなきゃいけない。かといって教科の連絡係りは楽だからみんなやりたがるだろうし…


そう考えていくと、私が出来そうなものは一つもない気がした。けど、一つだけ。


「(…代議委員って、何?)」


良くわからないけど、代わりに会議するってことかな。呼んで字の如くだけど。でも、会議だけなら楽そうだし、いいかも。


私は、席を立ってみんなと同じように黒板に自分の名前を綴った。まだ誰も書いていないから、多分私は代議委員で決まりだろう。ちなみに友達は4人でHR運営委員だったり(離れたくないための戦略)、教科係りだったりしたけど、どうせ一緒になれると思ってないから私は最初から「どれにする?」なんて相談には参加しなかった。なんか寂しい子みたい。でも、そうじゃなくて。


席に戻って、みんなが群がる黒板を上から順に見ていくと、やっぱり学級委員長は決まっていなかった。で、運営委員は私の友達で埋まってるから、その下。


代議委員の文字の隣に、私の名前。そして、いつのまにかその隣に、もうひとつ名前が並んでいた。


阿部


阿部くんだ。


どうして阿部くんが、代議委員?何かの間違い…じゃ、なさそう。


クラスの殆どが席につくと、先生が黒板をざっと見渡したして、人数が被ってないものから順番に丸をつけ始めた。始めに号令係りが丸、その次の世界史連絡係りも丸、いくつか丸がつかないのも合ったけど、みんな相談して決めたみたいで大体が丸だった。そして、…私が名前を書いた代議委員にも、丸がつけられる。


決定だ。 阿部くんと、同じ委員会。


思わず、阿部くんの方を見てしまった。そのとき一瞬目があって、かなりあからさまに逸らしてしまう。


その後被っている人達で話し合いが行なわれて、無事に全員の委員が決定した。その時点で授業終了のチャイムがなって、みんなが一斉に机の上を片付け始める。お弁当がない人は、購買まで買いに行かなきゃいけないからもうドアの前でスタンバイだ。


「起立、礼」


早速今日決まった号令係りがそう号令をかけると、スタンバイしていた人が勢い良くドアをあけて飛び出していった。私は普通にお弁当。机の横にかけてあったお弁当袋をとって、いつも一緒に食べている友達の方へ顔を向ける。…と、すぐ目の前になんと、阿部くんの姿があって、私は腰を抜かしそうなほど驚いた。


「っ、あ、べ、くん…!」
「…よろしく」


ぼそりとそう言って、どこかに言ってしまった阿部くん。一瞬なんのことかわからなかったけど、良く考えたら一つしかない。…委員のことだ。


「…よ、よろしく」


聞こえるはずはないけれど、何となくそう言ってしまった。


それだけを言いに、来てくれたのかな。


心臓がこんなにドキドキしているのは、突然だったから、ってだけじゃない。



私の好きな人。ちょっと無愛想で、結構短気で口が悪くて、でも芯がしっかりしてて、気が強い。


野球部 正捕手 阿部隆也くん。


彼はちょっと、よくわかりません。でも、これからわかっていけるかもしれないと思ったら嬉しくて、思わずお弁当を振り回してしまいました(当然中身は…)









2007.06.21 thursday From aki mikami.