みかりん。
さとみちゃん事件を聞き付けて萩間の家に遊びに来たを出迎えたのは、家主の萩間と、浅葱と、見たこともない異物。
「…何なのこの仰々しくて物々しいキャラクターは…!!」
「、それ意味一緒だから」
「どうでもいいよそんなこと!それよりこれ何!」
「みかりん」
浅葱の口から紡がれたファンタスティックな名前には軽く眩暈がした。
男二人がテーブルを囲んでそれを口に運ぶ姿は、いっそ異常でもある。
「かわいいでしょー?うちの地元の名菓なんです」
「お前が持って来たのかこんなものっ…!」
「実家の母親が送ってきたんです。さんも食べますか?」
「いらん!断じていらん!」
「えー、おいしいのにー…。ねーみかりん」
「話かけんな!大体これ何のお菓子なの!」
「みかんとりんごのコラボレートです」
なぜみかんとりんごがコラボレートしなくちゃいけないのか、と言う疑問を感じずにはられない。はテーブルの上で踊る黄色いパッケージを睨付けた。
…とてもこれとはわかりあえそうにない…。
そもそもは甘いもの自体好きではないし、かわいいものもファンタジーもからっきしだ。まるでの嫌いなものを一点に凝縮した嫌がらせのようなキャラクターを、まさか好きになれるはずがない。
しかもよくよく見ると、結構気持ち悪い顔をしている…
「浅葱っ、お前これ食ったのっ…!?」
「うん」
「…」
萩間だけならいざ知らず、浅葱まで…。は再び眩暈を覚えた。
「だってこれ浅葱さんのですよー」
「は?!」
「いつもお世話になってるからって」
「……お前の母はチョイスを間違えている」
「なんでですかー?かわいいじゃないですか。ね、浅葱さん」
「いや…僕もに同感」
「…気に食わないんですか………?」
「いや、そうじゃなくてキャラが…」
「二人が寄ってたかってみかりんをいじめるっ……!」
「だからそうじゃないって!」
人の話を聞かないで勝手にショックを受ける萩間。思わず同時にため息をついてしまうと浅葱。
「…、食べなよ」
「はっ?!」
突然、浅葱がそう言って袋をに差し出した。
「いや、無理無理!大体なんでっ…!!!」
「萩間がうるさいから」
「知らん!放っとけ!」
「放っときたいのは山々なんだけど、後々迷惑被るのは僕なんだよね」
「知ったこっちゃな…
い、と続けられるはずだったの口に、浅葱は問答無用でみかりんを放り込んだ。口の中で広がる何ともいえない味。りんごの甘味と、みかんのすっぱさが中途半端に混ぜ合わさった、拙悪なハーモニー。は迷わずトイレに駆け込んだ。
「さーん?」
その背中を見守りながら疑問の色を浮かべる萩間と…
「……」
複雑な気持ちを隠しきれない浅葱。
「(…そんなまずいものじゃないんだけど)」
甘い物が嫌いなにとってはつらいものだったらしい。
「…思わず駆け出すほどうまいってさ」
「え?そうなんですか??」
浅葱の大嘘に軽く乗せられる萩間。それをトイレで聞きながら、は口の中のものをリバースした。
その後、ご機嫌の萩間にもう一個みかりんを食べさせられたは、3日間自分の家から出てこなかったらしい。
あらゆる意味でみかりんは最強だという話。