みかりん。


さとみちゃん事件を聞き付けて萩間の家に遊びに来たが目にしたのは、家主の萩間と、浅葱と、見たこともない黄色い物体だった。


「…なにそれ?」
「みかりん、だって」
「み、みかりんっ!!!」


名前を聞いた瞬間、はまるでこの世の終わりを見たかのような形相でみかりんに飛び付いた。


「ちょっ、
「かっ…かわいいっ………!!」
「はぁっ!?」


みかりんのパッケージを取り上げ目をキラキラ輝かせる。その姿は19歳にあるまじきである。恋人である浅葱も、彼女のこんな姿は始めてみた。


「あ、さすが三上!わかってる☆」
「(さすがって…)」
「あ、やっぱり萩間もわかる?かわいいよねぇ♪ねぇ、これ食べてもいい?」
「それ浅葱さんのだから浅葱さんに聞かないと」
「え~、浅葱さんのなの?」


くるり、と浅葱を振り返るの目にはわずかに疑いの色が浮かんでいる。


「浅葱さんこういうの嫌いそうなのに」
「俺の母親が浅葱さんにって送ってくれたんだよ。地元の名菓だよ」
「なるほど!だから浅葱さんのなんだ!ねぇ浅葱さん、食べていい?」


弾むような声で尋ねるに、浅葱は軽くため息をついた。


「…別に、いいよ」


むしろ願ったり叶ったり。…とは口に出さない。出せばみかりん擁護の集中豪雨だ。


「みかりん~♪」


謎の鼻歌を歌いながら袋を開ける。それをにこにこ顔で見守る萩間と、二人に心底呆れ返る浅葱。


…まぁいつもの光景と言えばそうなのだが。


「……っ!!!」


大袈裟に目を見開いて見せたは、その場にみかりんを持ったまま仁王立ちになる。


「おっ………おいしいっ!!!」


ピカーッ、と後光が輝きそうなリアクションだが、そこまでうまいものではない。至極普通の味だ。


「りんごの甘みとみかんのすっぱさが醸し出す絶妙なハーモニー!」
「………」
「みかりん最高!!」
「…、うるさい」
「浅葱さん!みかりんのよさがわからないって言うんですかっ!!!」
「いや、そうじゃなくて…」


人の話をまったく聞かない。そしてそれに振り回される浅葱。それを傍観しつつみかりん肯定派の萩間。


テーブルの中心でみかりんの文字が踊っている。


「みかりんはおいしいけど…の声が近所迷惑」
「あ…ごめんなさい」
「わかればいいんだけど」


ようやく鎮まったを目の前に、短く息をつく。今日一日でどれだけのため息をついただろうか。


「それにしてもみかりん本当にかわいいなぁ~!」
「(……………そうかな)」
「萩間のお母さんセンスいいんだねー」
「えへへーそうかなー」
「そうだよー!私が言うんだから間違いないよー!」
「(が言うから間違ってると僕は思う…)」


そんな浅葱の気持ちをよそにみかりんトークに花を咲かすと萩間。


その後は萩間と二人でみかりんを完食し、黄色いパッケージを切り取ってプリクラ帳に後生大事に張り付けていた。


…そして3日後


「ただいまー」
「おかえりなさい浅葱さん!ねぇ見て見て!」


玄関で靴を脱いでいる浅葱に駆け寄ってきたは、誇らしげに手のひらからぶら下げた物を見せつけた。


「…何それ」
「みかりん!」


あれ以来はみかりんにはまったらしく、萩間の母親に頼んで送って貰ったりしていた。そして今日が浅葱に見せたのは、みかりんのマスコット。


「…もしかして手作り?」
「うん!」


こういうとき、手芸が上手いことを褒めたらいいのか、それともみかりんの可愛さを褒めるべきなのか…些か反応に困る浅葱。だが、無難に行こうと判断した彼は…


「よく出来てるね」


適当にそう言ってさっさと玄関を離れた。


みかりんには魔力があるかも知れない話。













2007.02.06 tuesday From aki mikami.