「今日もすっごく天気いいですねー」


結構唐突にがいうので、僕は読んでいた本から顔をあげてちらと外を見た。確かに外は一面の青空で、少し明けた窓からは緩やかに風が吹き込んでくる。とても穏やかで、すごしやすい時間だ。


「そうだね」


戸だけ返事をしてすぐに本に目を戻した。けど、活字は追わない。どうせすぐから、冷たいですね、と言葉が返ってくると予想したからだ。…だが、どうやら僕の予想ははずれたらしい。


は何も言わないまま、雑誌を放り出して外を眺めている。


人間、予想がはずれると寂しくなったりするものだ。自分もちゃんとした人間である以上、…認めたくはないが、少なからずそう思ってしまう。本に栞を挟んでテーブルに置くと、の隣に並んで空を眺めた。


青く、ずっと続いていく。まるで果てがないかのように、遠く離れて見える。


「…最近」


ぽつりと話し始めたトーンがあまりに落ち着いていて、少し驚いた。


「空が青いだけで、幸せになれるんです」


ざっ、と風が吹いた。どこかで芝刈りでもしているのか、青臭い臭いが微かに運ばれてくる。


「でね、それはきっと、今が幸せだからなんだろうなって、思うんです」


そう言って振り返ると、いつもの子供のような笑顔を見せる。そのまま額に、幸せ、と書いてあるかのような、本当に幸せそうな顔で。


「そうだね」


そう答えると、は元気にうん、と頷いて、僕の肩にもたれてきた。


は、わかっていそうでわかっていない。
空が青いと幸せになる、その気持ちはわかる。そう感じることも当然あるだろう。でも本当は、空が青くたって暗くたって、同じだ。だって僕達の気分は、天気によって左右されるわけじゃない。幸せなら雨だって楽しめるし、雪だって楽しい。


僕たちにとって本当に幸せなのは、空が青いことじゃない。


空を見る、余裕があること。


だけどそれをに言ってもわからないだろう。一般的には霊、と呼ばれるアレが、僕にしか見えないように。にはきっと、僕のいう意味がわからない。でももしかしたら、一生わからなくていいのかもしれない。


「散歩でも行く?」
「行く!」


早速準備を始めたの姿を見ながら、少し笑ってしまった。
最近、空が青いな、と。









2007.05.12 saturday From aki mikami.