体に泥が溜まっているような、嫌な感覚で目が覚めた。
ゆっくりと頭を起こす。水のなかのような浮遊感と、斬られるような関節痛に襲われ、ようやく自分が病気なのだと気付いた。
倍の重力がかかる体を必死で立ち上げる。ぞくりとした寒気が下から上へかけあがり、思わず身震いする。
ベッド脇の椅子にかけてあるカーディガンを羽織る。少しは寒気がおさまったが、残念ながら気怠さの方は消えてくれなかった。
薬箱から3錠、取り出したのはカゼ薬。
風邪をひくなんて何年ぶりだろう。うんと小さい頃、もう10年以上前のような気がする。少なくともLと出会ってからは一度もない。
『―――?』
目を閉じたら、そんな彼の声が聞こえて来た気がする。訝しげに様子を伺い、心配して不安がっている声だ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
頭の中で何度も唱えた。彼の仕事は雑他。邪魔は出来ない…だから、自分のことは自分でなんとかしなくちゃいけない。
薬を口のなかにほうり込み、水を一気飲みする。コップは乱雑にテーブルに置いて、ベッドに潜り込んで目をつぶった。
額がひんやりと冷たくて目が覚めた。
うっすら目を開けると、そこには細くてしなやかなLの指が置かれている。
「え…る…?」
「あぁ。目が覚めましたか」
おはようございます、と言ってこちらを見ているLを凝視すると、少しだけ口元が緩み、私の頭をゆっくり撫でた。
「昨日から様子がおかしいと思っていましたが…風邪をひいていたんですね。…すみません」
「え…?」
「ちなみにまだ熱がありますから起き上がらないでください」
体を起こそうとしてすかさず言われた。…つまりすべてわかっていると、そういうことだ。
「…あなたはすぐ無理をしますから。…もっと頼ってくれても構わないのに」
嘘ばっかり。と言ったらあなたはそうですか?と首を傾げ、それからまた小さく笑った。…今日の彼はよく笑う。
「愛するが苦しいと、私も苦しい。…だから早く治してください」
はぁい、と返事をする。いつも返事だけですね、と困った顔をするLだけど、きっと私を心配して言っているのだろう。
「風邪をひくと寂しくなると、以前言っていましたね。…今日は一日傍にいますから…早くよくなってください」
どうでもいいことのはずなのに、ちゃんと覚えていてくれる。
…そんなLが好き。
温かな安心感と、Lの優しさに包まれて目を閉じた。
朝起きてあなたがいなくても、胸の奥にあるこの小さな灯火は、ちゃんと残るはずだから。
2006.12.16 saturday From aki mikami.
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