愛なんてものは、到底知り得ないものだった。なぜなら、私はそういうものと無縁の世界で生きて来たからだ。


愛のない両親、冷たい兄弟、素っ気ないクラスメート。それは、生まれたときから私に課せられたある種の試練だったと、今でも思っている。


それをLに言ったら、それじゃあまるで、憎まれるために生まれたみたいです、と言われた。


「…まぁ、そういうことになるんじゃないの?少なくともそのときは」
「…許せません」
「は…?」
は私のために生まれてきたのに…許せません」
「そんな変なところでわけわかんない独占欲発揮しないでくれる?」
のすべてを手にいれたいがための言葉です」


なんだか前にも言われた台詞だな、と思った。そしていつだったかな、と記憶を辿る。


…あれは、そう。始めて体を重ねた日。


『…電気をつけてもいいですか…?』


私は思わずは?と言ってしまったのを覚えている。そのときはセックス自体が始めてで、その行為に淡い、そして甘いイメージを抱いていた。当然電気は消えていて、暗がりで二人、手探りで愛し合う。ドラマのワンシーンのような、官能的な、脳髄から痺れるようなものを期待していたのに。


『あなたのすべてがみたいんです』


今と同じようなことを言って、Lは私の許可を待たずに電気をつけた。大したスタイルもよくない…というか、汚すぎて誰にも見せたくなかった裸をLに見られてしまった私は、恥ずかしさと情けなさからつい泣いてしまった。そうしたら、Lが泣き顔も綺麗です、なんていうもんだから、思い切り肩を叩いて、それから息もつかせず口付けた。


その感覚が、おかしなほどリアルだった。


Lは私の左肩に額をすりよせると、子供のような動作でしがみついてきた。不快に感じることはなかったけれど、なぜだか違和感があって、私はLの顔を自分の方に向ける。


「L?」
「………


絞り出された声まで子供みたいだから、心臓が少し跳ねた気がした。…キラ事件のせいか、Lの調子が必要以上に気にかかってしまう。


のぞき込んだLの顔は、なぜだかいつもより白い気がした。


「…
「な、なにL?」
「…しましょう」
「…………はっ!?」
「だから、しましょう」
「………………」


………
なぜ急に。


私が硬直していると、Lはわずかに口角をあげて、大きな目で私を射抜いた。


「選択権はありません。嫌でも従ってもらいますから」
「…自分勝手」
「私、ちゃんと気付いてるんですよ。貴方が最近、私の顔色をうかがっていること」
「…っ」


一瞬悲しそうな目を見せたような気がしたけど、すぐに元に戻ってしまった。


「…なんで」
「わかるの、ですか?私はのすべてを知っているからですよ」
「そんなことあるわけないでしょう?」
「はい…まぁそうですね。でも、貴方はわかりやすいので」
「………見てたらわかるって?」
「えぇ」


くす、と小さく笑みが漏れたのが聞こえた。なんだか、Lに踊らされているっていうか、操られているっていうか、読まれているっていうか…ちょっと嫌な感じがする。けど、Lは悪びれた様子もなく、私をベッドに押し倒した。


「…また、電気つけててもいいですか?」
「………いいって言うと思う?」
「いいえ」
「なら聞かないで」
「そうですね」


またくすりとした笑いが漏れたあと、ふわりとした温かい腕が頭の上に回って、のびた指先が耳朶をやんわり包む。それが、私たちの合図。行為の、合図。


「…愛してます」
「はいはい」


しまったカーテンの隙間から、街灯りが漏れる。でも部屋の灯の方が格段に明るくて、恥ずかしいけど、そこにLがいることが実感できて、これはこれでいいかな、と思った。









2007.05.15 tuesday From aki mikami.