「何かテニ部盛り上がってたね。手塚君の応援いかなくていいの?」
「あー…いいよ。あたしが行ったらあいつ、気散るだろうし」
「まーたそういうこという!積極的に行かないと、大人気の彼は落とせませんよ?」
「あたしほど積極的なのも他にいないと思うけど」


立ち聞きする気は、まったくなかった。なのに、気づけば俺は二人の会話に耳を澄ましている。…これでハッキリした。はまだ俺を好きでいる。


「たしかにねぇ。今青学内で、一番仲いいかもね」
「それはいい過ぎじゃない?…女子の中では、一、二番くらいのつもりだけど」
「あれ、控えめだね」
「まぁね。…こないだ、思い知らされたから」


―――――『からかった事はあっても、嘘だけは…嘘だけはついた事ないのに…!!』


の台詞に、数日前の、彼女の言葉が浮かんだ。


「ねぇ、聞いてもいい?」
「ん?」
って、何でそんなに手塚君がすきなの?」


俺がまさに聞きたかった事を、そのまま汲み取ったように話しはじめた、の友人。聞いてはいけない…そう思いながらも、俺はずっとその会話に聞き入った。


「んー、まぁきっかけは、入試の時かな」
「あぁ、消しゴム貸してくれたってやつ?」
「そうそう。で、そのあとはほら、やっぱあたし、テニス好きだからさ。…かっこいいと、思っちゃったわけだね」
「ん〜?じゃあが手塚くんのこと好きなのはそんな理由なんだ?」
「そんな理由ってひどくない…?」
「だって、もっと深い理由あるのかと思って…」
「……最初に友達になるって行ったのはね、正直、振り向かせてやろうって気持ちだったの。やっぱり彼氏欲しかったし…結構軽い気持ちだったのかもね、お互いのことなにも知らなかったし」
「と、いうことは。…知っちゃったらめちゃくちゃ好きになってしまいましたと…?」
「まぁ、そういうことだねぇ。…やっぱり優しかったし…それに、ああいう姿勢…あそこ
までテニスに真剣に打ち込んでる手塚が、すごくすごく、かっこよかった」
の声が、俺の心に甘く響いていく。俺はのことが好きなわけでも、なんでもなかったはずなのに。


…俺を見ていてくれる人がいる。その嬉しさを噛み締めて、俺はその場を後にした。