授業を聞かないでいるなんて、始めてかもしれない。頭の中ではの言葉を繰り返している。


…ヤキモチを焼くなんて。それではまるで俺がを好きみたいじゃないか。…俺は1度を振っているのに。


「―――……づか、…手塚!!」
「っ!!」
「どしたの??なんかあんた今日変だよ??」


俺の目の前にはいつの間にか、が立っていた。


「……今ライティング終わったんじゃないの?次現国でしょ??」
「え……?」


に言われて、始めて気がついた。…もうとっくに授業は終わって休み時間に入っていたのだ。


「も、もしかして授業まったく聞いてなかったの…!?」
「…ぇ…あ、あぁ」
「うっそ!!すんげぇビックニュース!手塚が授業聞いてなかったなんて!もしかしてあんた病気じゃないの?」
「別にそう言うわけではないが…」
「じゃあ、テニス部のこと考えてたんでしょ?」
「そう言うわけでもない」
「んー…じゃあまたなんか頼まれ事でもした?あんたって無駄にお人好しだからねぇ。あ、純粋に優しすぎるって言った方がいいかな」
「―――…!!」


ジュンスイニ、ヤサシイ。


その一言が、俺の背中に重くのし掛かる。


…俺は、優しくなんかない。まだわからないのか?俺はお前を振ったんだ。強くて、優しくて、顔もスタイルも悪くなくて、それなりに頭もよくて。


…なにより、笑顔が似合っている、を。


俺は勢いよく立ち上がった。椅子がガタンと音をたてる。


「手塚…?」


叫んでやりたい、そう思うのに、の顔を見ていると、自分が恥ずかしくなって来る。


「俺は……優しくない」


口をついて出たのは、自分でも驚くほどに情けない、低くかすれた声だった。


少しの沈黙があった。回りは俺たちの事など当然気にせず、動き続けている。


「―――……優しいよ」


はっきりとした声が、耳に飛び込んだ。


「手塚は、優しいよ」


真っ直ぐに、見つめられる。その視線が痛くて、俺は目を逸らした。
…どうして、そんなに迷いのない目で言切れるんだ。


とうとう、その場にいる事にたえられなくなって、のとなりをすり抜けて歩く。後ろ
からの声が、どこに行くの、と追いかけてきたが、俺は答えないまま男子トイレに駆け込んだ。


……もう、の顔なんて、見られない。