「手塚」


そう言ったのは、大石だった。


「大石…」
「どうした、さっきからページが進んでいないぞ?」


俺は今、図書室にいる。昨日から消えない心の乱れを、読書でどうにか出来ないかと思ったからだ。…だが、黙って座っていると、の事ばかり考えてしまう。考えまいと思えば思うほど浮かんでくる。


「お前らしくないな、皆に当たるなんて」
「…すまない」
「気にしなくていいよ。苛々するなんて、よくあることなんだから」
「…」


そうは言ってくれるが、俺は青学テニス部の部長。部を担う者として、あんな態度が許されるわけはない。


「…何があったんだ?」
「え?」
「不二が言ってたけど…と桃の方を見て、ぼーっとしてたんだって?だから、桃が何かしたのかと思って」
「いや…その」
「それとも…の方、なのか?」


大石が、控えめに聞いた。

俺との関係は、3年全員が知っている。それは、が2年前に俺に告白したのが、丁度部活中だったからだ。


「……図星、か」


俺が黙っていると、大石はそう言った。


「何があった?」
「……」


そうとわれる言葉に、返すことが出来ない。くだらないことだと言われるのが、いやだったから。
…すると、大石は小さく息をついて、ゆっくりといった。


「…いいたくないなら聞かない。ただ、手塚。…無理することはない」
「…え?」
「お前がそんな状態なら、なかなか部をまとめるのは大変だろう?…すこし休んで、心を整理したらいいよ。その間は、俺が何とかするから」
「……ありがとう」
「気にしないでくれ。副部長として、これくらいしないとな」


大石はそう言って笑った。…いつも思う。本当に大石には頭が下がる、と。


1日だけ、部活を休もう。そして、考えよう。彼女の事、俺の事を。