「きれい…」


川伝いにすこし歩くと、そこに小さな滝があったので立ち止まり、眺めていた。こういう風景を見たら心が落ち着くはずなのに、俺の心臓はただ激しくなるばかりで、ちっとも落ち着けない。それは、と一緒にいるからだろうか。


「ねぇ国光、ちょっと水に入りたいね?」
「え?」
「冷たいかな…?」
「普通に考えたら冷たいだろう。それに、今日は少し寒い」
「んー…じゃあ、足だけでも」


そう言って、は俺の隣で靴と靴下を脱いだ。本当に入るつもりか?そう思ったら、目の前でじゃぶじゃぶと水の中に入っていく。


「転ぶなよ」
「大丈夫!っ、わっ」
「っ!危ない!」


バランスを崩したを、慌てて抱きとめた。言ってるそばからこれだ。昔二人で遊んでいたときも、良く苔を踏んで転んでいた。そのたびに俺がを抱きとめて、もう転ばないから、何ていい訳をしていた。


「あ、ありがと…」
「あぁ…」


俺の腕の中で体制を調えて、すっと離れていく。…あんな昔のこと、もう忘れてしまっただろうか。


は、少しずつ滝の方に移動していく。沈黙したままl、ゆっくりと。俺は彼女がまた転ばないように、右手をぐっとつないだ。だが、はそんな俺の考えも知らず、やがて手も離してしまった。…滝を見上げ、ぼんやりとしている。


「…前にも、あったよね、こんなこと」
「あ……あぁ…」
「ねぇ、国光」


突然俯いて、…沈んだ声で、俺を呼ぶ。最近のはいつも笑っていたから、そんな声が少し慣れなくて、我が耳を疑った。


「…国光…私のこと、嫌いなの?」
「っ」


問いかけてそれっきり、は口を開かない。こちらを向きもしない。


…ずっと、そんな思いをさせていたのだろうか。俺に嫌われていると思って、悲しんでいたのだろうか?それを隠して、笑い掛けていたんだろうか。…俺は、自分だけが苦しいと思っていた。だが、そんなのは大きな間違いだ。


俺との間にある、3年間という壁。それを感じているのは、俺だけではなかったんだ。当然だ、目の前にあるのだから…だって、それを感じていたはずだ。それに、俺は気づくことが出来なかった。…情けない。


「…俺が、お前のことを嫌いになれると思うか?」
「え…?」
「嫌いだったら、二人でなんていれない。俺の性格は、お前が一番良くわかっているだろう」
「そう…だけど」
「お前は俺にとって、大事な幼馴染だ。お前にとっても、そうだろう」
「…うん!」


その瞬間、が振り返った。…瞳が潤んでいる気がするのは、気のせいだろうか。


「だって最近の国光こわかったんだもん?」
「そうか…誤解させてすまない」
「いいよー、別にもう。ちゃんと国光の気持ち、聞けたから」


いつものようにおどけた様子で、が言う。その笑顔にほっとする。…昔もこんな気持ちになっていたな、と思ったら、少し嬉しさが込み上げた。