「手塚ー?」


顔をあげた俺の目の前で、が満面の笑みを浮かべた。


…」
「よっ。あそびにきたよ」


そう言って笑う。だが彼女のクラスは乾と同じ11組。戻るだけで大変なので、が用事意外でここに来たことはなかった。


「授業に遅れるぞ」
「大丈夫、私足早いから!」
「廊下は走るな」
「そんなこと言っちゃって〜、私と話したくないの〜?」


冗談めかして聞いてくるに、なんとなく腹が立った。


「…話したくない」
「またまたそんなこと言っちゃって〜」
「……読書がしたい」
「読書ならあとでも出来るでしょ?」
「お前と話すのだってあとでも出来るだろう!」


言い過ぎた、と思った時にはもう遅かった。

は怒りで拳を握り、小さく肩を震わせていた。俺を鋭く睨む目の間にしわが刻まれている。


「あっそう?」
「っ、…」
「11組からわざわざやってきた私に帰れって言うのね?つまり私のことなんてどうでもいいってことでしょ!」
「違う、…!」
「もういい。私帰る」


俺に弁解の暇も与えずに、は去って行った。途端にクラスの友人と数人の女子が寄ってきて俺を取り囲む。


「手塚ぁ!今の何だよお前!」
「あれって11組のさんでしょー?なんか怒ってたみたいだけどー」
「夫婦喧嘩か?」
「どうでもいいけどあの人怖くない?しかもめっちゃ手塚くんに付き纏ってんじゃん」
「…そういうわけじゃない」


俺がの味方をしたのに余程驚いたらしい。全員がは?と声を揃えて言った。


は俺に付き纏ってなどいない。
俺以外の奴とも一緒にいるし、俺より仲がいい奴だってたくさんいるのだろう。


…跡部や、海堂。


俺はあの二人みたいに、と並んで街を歩いたことなんてない。


本鈴がなった。先生が入ってきて、全員一斉に席に戻っていく。


まさか集中なんて、出来るはずなかった。