コートの外側、フェンスに寄り掛かって、は泣いていた。


泣いているのがわかったのは、の肩が震えていたからだ。





声をかけると肩が震え、更に深くうつむいた。俺の顔など見たくもないと、そう言うことだろう。


「………何しに来たの」
…すまない」
「何がすまないよ!絶対…絶対許さないんだから…!」


痛烈な言葉だった。


に許されないことが、俺にとってどれほど苦痛か…友達を、失うのが、どれほど悲しいか。


…友達?


「…本当に…悪いと思っている」
「…」
「正直…自分でもなぜあんなに腹がたったのかわからないんだ」
「………」
「今まではそんなことなかった…お前と話すのは楽しいし…だが今日は……」
「そんな言い訳聞きたくない!」
「でも聞いてくれ!」
「そんなの自分勝手よ!」
「わかっている!でも…俺は、お前に嫌われるのは嫌だ…!」


そうだ。


俺はに嫌われるのが嫌だ。


にだけは、嫌われたくない。


にだけは?


「……都合よすぎ」
「わかっている」
「…聞くだけ聞いてあげる」


は顔を左に背けると、小さく鼻を啜った。


は…付き合っているのか?」
「………は…?」


素頓狂な声を出してが俺を見上げた。


普段は澄んでいる目赤い。


「つまりその…この間聞いたんだ…海堂と話しているのを」
「は…はぁ…なにを…?」
「デートの約束…してなかったか?」
「で、デート!?してない!絶対してない!なんで私が薫と…!」
「違うのか…?放課後買い物に行く約束をしていたのを確かに聞いたんだが…」
「…………………あぁ…もしかして…あれだ!先週無理やり付き合わせたやつ!」


やはりそうなんだろう、と聞きたい気持ちをぐっと堪える。


「あれはデートじゃないよ」
「え…?」


驚いた俺に、は小さく笑って見せた。


「プレゼント買うの…一緒に選んでもらっただけ。あんまり参考にならなかったけど」
「ぷ…プレゼント…?」
「そう。だからデートじゃないよ。…大体ね、手塚?」


赤い目のままで頬を膨らませる。…いつもの彼女だ。


「薫は幼馴染みなの」
「…え?」


幼馴染み?そんな話一度も聞いたことがない。だが言い訳にしてはあまりに無理があるから、きっと本当のことなのだろう。


「薫のお母さんとうちのお母さん、高校時代からの大親友なの。だから小さい頃からよく一緒に遊んでたわけ。好きになんて絶対なれないわ」
「そ…それもまた失礼な話だな」
「だって本当のことだもん。…それに薫だって、確か好きな子いたはずだし」


つまり。


俺はとんでもない勘違いをしていたわけか?


とんだ取り越し苦労だ。


「でもなんでまた…そんなこと?」
「いや、もういいんだ」
「…はぁ…?」


じろりと睨まれた。確かにわけがわからないだろう。


「…
「何…?」
「すまない」
「え…う、うん…あの、えっと…」
「少し考えすぎていたようだ。気にするな」
「考えすぎ?なんで?」
「……行くぞ」


なんで?


そう聞かれて答えが出なくて、俺はごまかすように歩き出した。待って、といってついてくるは、多分もうすっかりいつも通りだ。


友達?
にだけは?
なんで?



…ダメだ。もうやめよう。せっかくと仲直りが出来たんだ。余計なことを考えるのは、やめてしまおう。そうだ、俺の考えすぎが喧嘩の原因なら、考えなければいい。


元部長と、元マネージャーの関係。


それでいい。