12月も20を過ぎると、街はすっかりクリスマス一色になる。俺達の街も、勿論例外ではない。それに学校も、もうすぐ冬休みに入ることもあってか、全体がどこか浮き足立っている。俺達は三年生と言っても、高校まで持ち上がりで試験も簡単なものしかない。冬休みは受験勉強、なんてやつはもっと頭のいい高校に行くやつか、高校にあがれないくらい頭の悪いやつだろう。学年全体で見ても、両の手で数えられるほどの人数しかいない。


家に帰ると母さんにクリスマスの話をされて集中出来ないので、学校で宿題を済ませてしまおうと教室に一人残っていたら、同じことを考えていたらしいからメールが来て、どうせなら一緒にやろうということになった。わからなくなったら俺に見せて貰おうと言う魂胆らしい。それは感じ取ったのではなく、がここにきた瞬間に自分で高々と宣言したことだ。宣言されなくても薄々感づいていたことではあったのだが、こう言われると、嫌な気分を通り越して、いっそすがすがしく思えるものだ。


「それにしてもさ、テニス部もそうだけど先生も!普通クリスマスの前に宿題出しますかってーの!」
「クリスマスと勉強は関係ないと思うけどな」
「あのねー!イベント事は目一杯楽しみたいでしょ!」
「宿題が出てても楽しめるだろう」
「楽しめない!宿題に使う時間がもったいないもん!」
「だから今やってるんだろう」
「ま、それもそうなんだけどね。どこまで出来た?」
「問7まで」
「え!うっそ、もうそこまで進んでんの?」
「お前はどこまでいった?」
「問4」
「遅いな」
「ちょっと計算間違っちゃったの!すぐ追いつくから待ってなさい!」
「待たないぞ」
「意地悪ー!」


そう言うと、はは、と笑い始めた。笑ってる暇があるなら手を動かせ。そう言いかけたが、いったら拳が飛んでくる気がしたのでやめた。は笑ってる方がいい。怒らせたら…怖い。


「…ところで手塚さぁ」


突然声色を変えて話しだしたので、思わず顔をあげた。


「……なんだ?」
「今年のクリスマスも、家族と過ごすの?」


の顔は、ノートに向けられたままだ。


「あぁ…そうだな」
「そうなんだ…誰かと出かけたりはしないの?」
「そんな予定はないな」
「そーなんだー…」
「……なんだ?」
「え、何が?」
「いや、なんで急にそんなことを聞くのかと……というか、お前の方にはないのか?」
「うーん…ない、から……誘おうと思ったんだけど…ダメ?」


そう言って、小首を傾げた。一瞬なんのことだかわからなかったが、なんとか理解する。


俺と一緒にクリスマスを過ごしてもいいかと、そう聞いたんだ。


「ダメではないが……」


俺なんかでいいのか?そう聞こうとする前に、が俺を遮った。


「あ…気、すすまない?」
「そんなことはない」
「じゃあなに?やっぱり家族との方がいいとか?」
「そうでもない」
「………じゃあ、なに?」


そう言って、は顔をあげた。…少し、強張っている。


「俺とでいいのか?」
「………は?」
「はって…だから、俺なんかとでいいのかと聞いてる」
「いいのかって…こっちから誘ってるんだからいいに決まってるでしょ?」
「…まぁ」
「………………」


おかしな沈黙が訪れる。…そうだ、そんな当たり前のことを改めて尋ねるなんて、どうかしてる。だが瞬間的に思ったのだ。…本当に俺でいいのか、と。なぜそう思ったのかはわからない。


「なら…出かけるか、二人で」


沈黙が重くてそう言ってみたら、少しだけ恥ずかしくなった。だっては、"二人で"とはひとことも言わなかったからだ。も同じように思ったのか、少し顔を赤くすると、小さくうん、と頷いた。


「あ…じゃあさ、どうする?待ち合わせとか、日にちとか!あとさ、明日だったら終業式じゃん?だから、学校から帰ってからいくとか…」
「ああ…そういうのはの都合に合わせる。明日でも明後日でも」
「え?じゃ、じゃあ…」


一度言葉をきると、少し考える動作をして、顔をあげると小さく笑った。


「両方……は?」
「両方?」
「……………ダメ…かなぁ」


…きっとすごく恥ずかしいんだろうことが、はっきりわかった。当然と言えば当然だ。を見ていたら俺まで恥ずかしくなってきて、大丈夫だ、と答えたが不機嫌に聞こえたかもしれない。だがは気にならなかったらしく、やった、と、本当に嬉しそうによろこんだ。


なぜそんなに喜ぶんだろうか、頭の隅でそんなことを思う…が、喜ぶを見て、自分間で喜んでいるところもある。


俺は考える、なぜ嬉しいのか、と。


理由はたったひとつ、が俺を誘ってくれたから、だ。