。…俺は昨日からずっと、のことばかり考えていた。考えすぎなのは百も承知だ。だが、考えずにはいられない。こんなにも落ち着きがなくなる自分に、自分でも驚いていた。


多分、他人からみると相当わかりやすかったに違いない。終業式で全国優勝の表彰があるために呼び出された先の教官室で、大石が心配そうに俺に何があったと尋ねてきた。


「みんな言ってるぞ、今日の手塚はおかしいって。…一体何があったんだ?」
「いや…特に何も…」
「おいおい、俺に隠し事はしないでくれよ。それに、手塚がそこまで表に出すってことは、相当なことだろう?相談くらいならのるよ」


大石はそう言って、俺の肩を叩いた。


大石は、いつもこうやって俺のことを支えてくれている。大石の助けがあってこそ、テニス部はやって来れた。いつも他人のことを考えて、チーム全体を見回している、大石がいたからこそ。


そして、大石には部活以外のところでも助けられている。なのに、また頼っていいものか悩んだが、他に相談する相手がいないのも事実。…俺は、取り敢えず話して見ることにした。


の…ことなんだ…」
「え?」


俺がそんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。相当驚いた様子でそう呟いた大石。


「み、のことって…」
「今日と明日、一緒に出かける約束をしてて…」
「そうなのか?よかったじゃないか!」


そうだな、と、俺は答えた。…良かったと思う。嬉しいと思っているのだ、俺は。だが、どうしても手放しで喜べない。


「…大石」
「なんだ?」
は…俺のことが、好き、…なのか?」


ずっと引っかかっていたこと。が、俺のことを好きなのかどうか、だ。


「そりゃあ…クリスマスにデートに誘うってことは、そう言うことだろう?」
「確かにそう思うんだが…」
「……何が不満なんだ?」
「いや、不満なわけじゃない。…ただ、前に海堂がいっていたんだが…跡部と二人で、買い物に出かけていたらしいんだ」
「え…ふ、二人で?」
「あぁ」
が…しかも跡部と?なんで…」
「わからない」


正直に答えると、大石は困った顔をした。…当然、そんなことを言われても困るだろう。だが、俺としては結構真剣に考えていた。


俺のことが好きでもないのに俺と出かけるんだとしたら、俺は嬉しくない。


「……なんでが跡部と出かけたのかはわからないけどさ」


大石は、少し笑って、そう始めた。


「俺が見てきた限りでは、は手塚のこと、好きだよ」
「…そう、なのか?」
「あぁ。…ふざけてる様に見えるけど、ちゃんと本気だと思う。だって、それにやっぱり…女の子の方からクリスマスに誘うって、特別なことだよ。ほら、ってロマンチストなところあるだろ。そう言うイベント事は大事にするだろうし…。お前のこと好きかどうかはわからないけど、少なくとも浮気とかはしない性格だろう」
「…確かに」



『手塚、知ってる?クリスマスの夜には―――天使が出るって』


はそう言っていた。あんな風に目を輝かせていた。…クリスマスを、きっととても楽しみに、大切にしているんだろう。


「……そうだな。に二股なんて、似合わない」
「そうそう。だから自信持って出かけて来いよ。上手くいったら俺にも教えてくれよ」


そういった大石は、少し楽しそうだった。茶化すような意味合いではない笑顔。俺の話を真剣に聞いて、真剣にそう言ってくれているんだとわかる。


「ありがとう」


俺がそういった瞬間、ステージにつながる扉が開いて、俺達の名前が呼ばれた。これから賞状とトロフィーを貰って、考えてきた言葉を、全体に向って話す。いつも生徒会長としてやっていることと変わらないから、特別緊張することもない。


俺達はふたりでステージに上がった。賞状を受け取って、大石もトロフィーを受け取ると、大石は先にステージを下りていく。俺の方は、校長先生が立っていた方に立って、マイクの位置を直して、用意してきた紙を広げる。…顔を上げて、思わず11組を見たら、がこちらを見て小さく笑っていた。


…考えすぎだ。


俺は一度深呼吸してから、紙を読み上げ始めた。