軽い昼食を取ろうと入った先で、俺たちは意外な人物に出会った。 「よぉ、手塚」 「跡部…」 跡部は俺たち二人を見て、にやりと笑う。 「おい、お前は俺様を差し置いて手塚とデートとは…いい度胸してるじゃねぇか」 「なっ!なによその言い方!一回デートしてやったくらいでいい気にならないでよね!」 敵意むき出しのに対して、跡部は余裕の笑みだ。どうやら跡部の方はに気があるらしい。 「相変わらず気が強ぇな。ま、そんな態度取ってられんのも今のうちだぜ?」 「もういいからどっかいってよ。ご飯がまずくなる!」 「…言うじゃねぇか」 の言葉が気に食わなかったらしい跡部は、不機嫌そうにそういうと何故か俺の方をにらんできた。 「大体手塚よぉ、お前も…に惚れてんのかよ?」 「ちょっと、手塚にからむの止めてよ!」 「あァ?俺が誰に話しかけようが俺の勝手だろうが」 「あんたが出てくると全てがややこしいのよ!」 「…もう放っておけ」 「?何だお前、3年間も一緒にいてまだって呼んでんのか?」 「跡部!あんたいい加減に…!」 「、お前やっぱり俺にしとけよ。こいつより大事にしてやるぜ?」 「っ…跡部」 瞬間的に頭にきた。気付いたら俺は立ち上がって、迎えにいた彼女の手を引いて、さっさと店を出た。会計を跡部に押し付けてきたが、そんなことはどうでもよかった。むしろそれくらいしないと怒りがおさまらなかった。 「…ちょ、手塚!会計…」 「放っておけ。跡部が何とかするだろう」 「そうだとしても…!」 「」 とっさに口をついて出た。呼ばれた彼女は目を見開いている。俺も、自分の突飛さに気がついて、恥ずかしくなった。 「…あ、いや…」 「……」 お互いに黙りこむ。なんと言っていいのかもわからず、目を合わせることも出来なくて、どこでもなく視線を斜め上に向けていると、…なぜか、がふっと噴きだした。俺が視線を向けると、くすくすと楽しそうに笑っている。 「……なぜ笑う…」 「だって、手塚…、跡部に対抗して?って思ったら…面白くて」 「面白くない」 「手塚ってやっぱり、跡部に負けたくないんだー?」 俺の顔をのぞきこんでくる。まだ笑いがおさまらないらしい。 「……笑うな」 「怒らないの。…嬉しいんだから」 「…え?」 「って呼んでよ、これからは。……あと、私も……国光って、呼んでもいい?」 急に表情が変わって、驚いた。今までの子供っぽい笑顔じゃなくて、もっと大人っぽい、静かな笑み。 「…あ、あぁ」 そうとだけ答えるのが精一杯だった。いつもそうだ。こういう顔を見ると、俺は何もいえなくなる。 俺の言葉を聞くと、楽しげに笑って見せた。そして、俺の手を引いてまた歩き出す。振り返って、跡部に感謝だね、と言った。 「そうだな」 あいつに感謝なんて冗談じゃないと思うが、今回ばかりは。の少し冷たい手を握りながら、そう思った。 ◇ ◆ |