6−3 勝者、手塚。
は、そう言って笑った。
最初、俺は右手で試合をしていた。それは、も本気を出していないことがわかったからだ。というよりは、試合に集中できていない様子で、なんとなくラリーをこなしているようだった。
その状態で3−1まで来た時、突然の表情が変わって、ここからは本気で相手をして欲しいと言われた。その時の表情が真剣で、何か吹っ切れたような表情をしていたので、俺も左手に持ち代えて、ラケットも試合で使っているものに変えた。
それからのは驚くほど楽しげで、劣勢になっても、ラスト一点の時も、楽しげに笑っていた。
負けたと言うのには今までで一番良い顔をしていた。普段は俺と一緒にいるとひねた顔しかしてくれないので、のそんな顔を見られるのが嬉しかった。
「手塚」
名前を呼ばれて顔をあげると、がこちらに向かって右手を差し出して、微笑んでいた。俺はその右手を取って、力を込める。
「ありがと、すっきりした」
「…おれも、お前と試合できてよかった」
「そりゃよかった。…勝てなかったけど、楽しかったよ。それに、…心の整理も出来たしね」
「心の整理?」
聞き返した俺に、は少し視線を落として、ふぅ、とため息をついた。やや気まずそうな顔をしていたものの、いつものように怒った様子はなく、ラケットを手の中でクルクル回しながら口を開いた。
「私、本当はちゃんとわかってる。手塚が言ったこと。…でも、なかなか素直に受け入れられなくて…」
「…」
「なに…?」
「お前が一年の時…部活に入っていたと聞いた。そのとき、何があったのかも、少し」
俺が言うと、は俯いて黙ってしまった。…手に持っているラケットが、小さく震えている。
「…手塚」
「何だ」
「すこし…話そっか」