「お疲れ」
明るい声で生徒会室に入ってきたのはだ。今は昼休み、生徒会室には俺との二人だけだ。体育祭の運営やスケジュールについての書類を作成して、明日までに先生に提出しなければいけないのだが、どうにも放課後だけでは終わりそうにないので昼休みに少し手をつけようと、と二人で相談して決めた。
他の生徒会役員は呼んでいない。その理由は、二人だけでもなんとかなると判断したのが一つ、放課後だけで終わりそうにない理由が二人揃ってテニスという個人的理由からだというのが一つ、そして、これはもしかしたら俺一人の理由かもしれないが、と二人で過ごす事ができるからというのが一つ。
「じゃ、ちゃちゃっと終わらせちゃおっか」
気合の入った表情でうっすら微笑みながらそう言うと、俺の隣の席にやってきて、スカートの折り目を綺麗に直してから椅子に座り、これもやはり気合の入った様子で、よし、と声を出した。
「やる気になっているところすまない。これを見て欲しいんだが」
「ん?何?」
俺の差し出した書類を、躊躇う事なく受け取って目を通す。少し前までは声をかけることすら一苦労していたというのに、まさかとこんなふうに話す事ができるようになるとは思わなかった。
これはね、と言いながら、俺に見えるように書類を広げる。俺はの持っている書類を見るふりをして、こっそりの顔を盗み見た。
俺の告白に対する返事はまだないが、三つ目の理由が俺一人の理由ではないと、そう思えてしまう。それはが以前と比べてかなり優しくなったというのもあるし、俺としっかり会話してくれるようになったというのもあるし…
「…あの、手塚…」
「なんだ」
「…あんまり見ないで欲しいんだけど」
俺の言葉や行動に、怒るのではなく照れたように赤面するようになったからだ。
「すまない。つい見つめてしまっていた」
「もう。こんなことしに生徒会室に来たんじゃないでしょ」
「そうだな」
俺がそういうと、相変わらず赤面したまま、もう、と唇を尖らせた。こんな表情も、今まで見る事ができなかった顔だ。
も同じような気持ちであればいいと思いながら、俺はが広げた紙を今度こそ覗き込んだ。
肩と肩が触れ合うまで、あと3cm。