翌日。


大石に大会のオーダー確認で…と言うのは半分口実に、俺はへ栞を返すために、2組に向かった。俺の手にはオーダーの書いたメモ帳と、俺にはあまりにも不似合いな桜色の栞が握られている。


2組で友人と話していた大石を捕まえて、少しだけ説明をして、するとすぐに、指摘された。


「あれ…?それってもしかして…」
「あぁ…に借りた栞だ」
「そっか…それを返しに来たんだな?」
「……半分は、そう言う理由だ」


すこし笑っているように見える大石を尻目に、俺はを探した。…一番前の、一番窓側の席に座って、文庫本を読んでいる。陽の光が射し込んで、黒い髪が光っている。


「―――


彼女の前まで行って声を掛けると、彼女は驚いた様子で顔をあげた。本をめくる手が、止まって、まっすぐに、俺を見据える。


「手…塚…?」
「これを、返しに来た」


早速、彼女に栞を差し出した。すると、彼女は俺と栞を交互に見て、小さくくす、と笑う。


「私、あげるっていったんだけどなぁ」
「しかし…」
「それとも、いらなかった?」


相尋ねる彼女の笑顔がすこし意地悪で、驚いた。普段図書室で見る彼女は、もっとすました顔をしているからだ。

…そう言う顔もできるんだな、と改めて思った。


「そういうわけではないが…良いのか?」
「いいよ。私2個もってるって、いったでしょ?」
「だが…こんなに綺麗なものを…」


俺がいいかけた瞬間、丁度良く本鈴が鳴った。他の生徒たちも急いで教室へと戻って行って、俺も栞を持ったまま、かけだす。入り口まで来て、が突然手塚、と呼び止めたので振り返ると、俺に近づいてひとこと。


「まだ文句があるなら、昼休みに図書室でね」


そう言って、また席に戻っていった。