の言葉が気になって、図書室に行った。…ドアの小窓から見える彼女は、椅子に座ってノートに何かを書いている。勉強か、と思うが、彼女の周りに参考書は見当たらず、ただひたすら、顔もあげずに書いている。俺は、出来るだけ静かにドアをあけた。


いくら静かにドアをあけても、静かな空間に響く音は気になる。大半の人間がこちらを向いた中で、だけは少しも顔をあげない。


今度も出来るだけ静かにドアを閉めると、俺はまっすぐ、の前に歩いた。目の前の席に座って、それでも気づかない彼女を見やる。…これは、声を掛けないと気づかなさそうだ。


「…


…反応なし。





すこし強めに呼んでみるが、また反応なし。もうこれは、肩でも叩いてみるしかない。


、」


呼びかけると同時に、肩を叩いた。すると、はゆっくりと顔をあげる。


「手塚…?いつからそこに?」
「すこし前から」
「もしかして…またやった?」
「いつもこんな感じなのか?何度呼んでも答えなかった」
「あっちゃあ…ごめんね…?」
「いや、大丈夫だ。それにしても凄い集中力だな。それだけ書くのに夢中になっていたわけか」
「え…?あ、いや、その…」


ばん、とノートを閉じた。すこし赤くなって笑ったあと、小さくふぅ、と息をついた。


「すまない…その、見られたくなかったのか?」
「や、その……そうだけど、でもそんな全然、きにしないで…!」
「あ、あぁ…でも、その、中身はみてな…
「き、きもちわるいよね、こんなの書いて…」
「え?あ、いや、だから中身は…」
「でも、夢なんだ…小説家」


消え入りそうな声で言った。その言葉に、俺は思わず聞き返してしまいそうになった。だが、中身は見ていないと言う俺の弁明を遮ったの口からは、確かに"小説家"の言葉。


「小説…だったのか」
「え?」
「あ、いや…なんでもない」


まさか、ノートの中身が小説だったとは、少しも思いはしなかった。


「その…なんだ、俺は読んだわけではないから、気の聞いたことは言えないが…全然気持ち悪くはないと思うぞ」
「え…?」
「自分の夢や目標に向かって精進するのは…気持ち悪いのか?」
「…ううん」
「なら、の書く小説だって、気持ち悪くなんかないだろう?」
「、うん…!」


が、やわらかい笑みを浮かべ、笑った。…そのあまりの可愛さに、見惚れるほどだ。


「……手塚?」
「、何でもない」
「顔赤いけど、大丈夫?」


純粋に心配してくれる様子で俺をじっと見る。俺は、近づいてきたの顔に、ますます赤くなるのを感じた。


「あれ?もしかして手塚、照れてる?」
「…」
「ちょっと近づいただけなのに?はは、おっかしい!」


控えめに、くすくす笑いはじめた。周りの人間がすこしこちらを振り向いたが、彼女はそれに気づいていない様子だ。…このままでは、恥ずかしさが倍増だ。


…とにかく、笑うのはやめてくれ、人が見ている」
「あ、ごめんごめん」


まだ笑い治まらぬ様子でうなづいたが、なぜか…すごく近く見える。今まで他人だったのが、ぐっと親しくなれた、…そんな気がした。