あれから俺たちは、度々図書室であうようになった。といっても、話はほとんどしない、俺は本を読んで、は小説を書いて……そんな、緩やかな時間がすぎて行く。


彼女と過ごす時間は、心地よかった。話すわけでもないのに、お互いがわかりあえるような気すらした。当然図書室の外でも会う機会は多くなり、部活にも、時々応援に来てくれるようになった。


今までそれほどフットワークが軽いわけではなかったがテニス部にやってきたことで、学校中が"の彼氏がテニス部にいる"と言う噂で持ち切りになった。


…これは、テニス部の3年しかしらない、が、俺に会いに来ている事。そしてこれは、俺としか知らない、俺たちが、休みの日も2人で会っていること。


俺は家についてすぐに鞄を開けた。今日は、又新しい本を買ったので、早く読みたいと思ったからだ。鞄のすこし奥に縦になっていた本を取り出す。すると、自分の鞄の中に見慣れたノートを見て、俺はそれをとり出した。


桜色の表紙。最近は見なくなったが、いつかみた、の小説ノートだ。


勝手に見てはいけない。そう思うのだが…手が動いてしまう。自然とページを開いて、読み始めてしまった。


そのノートいっぱいに綴られていたのは、テニス部に所属する少年と、その少年に恋をする少女の話。まず心臓が跳ねたのは、少年の設定だった。


テニス部の部長で、左利き。頭が良くて、堅物で、優しい。背が高くて、メガネを掛けている。


頭が良いのと優しいのは違うが、他はほとんど、俺とそっくりだ。そして次に驚いたのは、二人の出会い。…俺との出会い方と、そっくりなのだ。


これは、ぐうぜんではないだろう。が、"俺を"書いたんだ。


俺は、ページをどんどんめくっていった。話の内容は、少年の方が大人になってプロになり、少女と別れてしまってから数年後再会し、昔の愛情が戻り、また結ばれるというものだった。内容自体は、そこまでひねってあるわけではない。…だが、彼女の話は、表現がとても甘く、涼やかで、二人の心や、周りの人間の動きや心が、繊細に表現されていた。


ゆっくりと、ノートを閉じる。心が透き通っていくような、独特な読後感が、俺の頭を緩く支配した。普段は恋愛小説なんて読まないのに、…自分がモデルになっているからだろうか、いつもよりずっと感情移入が出来る。


ノートを大切に、鞄に閉まった。…返すのがもったいないくらいに、俺は彼女の"ファン"になった。