俺が竜崎先生と診察室から戻って来た瞬間、は勢いよく立ち上がって俺を心配そうに見やった。
「手塚…!!」
「っ、……」
「治るの……?!」
そう問い掛ける声は、悲痛の叫びのようにも思える。…俺は、ただわからないと答えるだけだった。
俺のように肩を痛めた選手は少なくない。故に、治療法はあるが、それで必ず治るとは限らない。……治らないという事は、テニスができなくなるということだ。
…そんなことになりたくはない。ならないためには、どんな努力でもするつもりだ。
「…だから…言ったのに」
消え入りそうな声で、が言った。その言葉が重く、心に響いて来る。…こんなに、心配してくれているのに、俺は聞かなかった。後悔はしていないが、余計心配させてしまったことが、心苦しくてならなかった。
「…」
「……」
俺が話しかけても、返事はない。俯いたままで、強く拳を握ってたっている。
「…手塚よ」
今まで隣りで見ていた竜崎先生が、躊躇しながらも言う。
「なんですか」
「取り込み中悪いんだが…ちょっといいか」
そう言われて、先生と俺は少しだけから離れた。…細い背中が揺れていて、頼りない。
「…肩の事なんだが…治せるぞ」
「え…!?」
「九州に、青学附属病院があってな。そこでなら、治療をしながらリハビリや体力トレーニングも出来る。…だが、お前だけでは決められないだろう」
「はい、父や母に話してみないと…」
だが、こんな願ってもいない話。きっと父も母も祖父も、了承してくれるはずだ。
…あとの問題は。
「まぁ…なんだ、お前もいろいろあるようだしな。ここから歩いて帰れるなら、送ってやったらどうだ?…今のことも、お前の口から聞かせてやれ」
そう言って、竜崎先生が軽く、俺の背を押した。が空ろな目で、ふっとこちらを見る。
「…ありがとうございます」
それだけ言って、俺はの手を無理やりに引いて、病院を出た。触れた手が、涙で湿っているのがわかる。普段俺の手や腕に触れる手は、あんなにさらりとしていて、まるで滑るようなのに。
こんなふうにしたのは、俺だ。