外は、まだ少し陽が射していた。薄着のには少し寒いかもしれない、涼しい風が吹いて、時々、風に吹かれた彼女のスカートがふわりと揺れる影が見える。


もう、すすり泣きも聞こえない。だが、相変わらずの手は少し湿っている。…それは、俺がさっきから強くの手を握っているからで、それをは振りほどこうとはしない。だが、だからと言って隣に並んでくれるわけでもない。悪魔で俺についてくる。…怒っているのだろう。


「…


俺が呼びかけると、つないだ手がかすかに震えた。


「…すこし、話さないか」
「……」
「いや、…話がしたい。…お願い、聞いて貰えるか」


ふりかえって、を見据えて言う。…すると、彼女はゆっくりと、それでも深く、頷いた。…目は、あわせてくれない。


俺たちは、すぐ近くの公園に入った。屋根付きのベンチに並んで座り、空を見上げる。手は、まだつないだままだ。済んだ空気が肺の中に入ってきて、頭が冷えていく感じがする。すると隣で俯いたままのが、小さくくしゃみをした。


「…寒いか?」
「……ん」
「そうか」


俺は、自分の来ていたレギュラージャージを脱いで、の肩に掛けた。その瞬間はじかれたように顔をあげたと、やっと、目があう。…すこし潤んだ、黒い瞳。長めのまつ毛が所々まとまっていて、わずかに目が赤くなっていて…俺がそんな顔をさせているんだと思うと、いてもたってもいられなくなった。

ジャージの上から、了解も取らずに、を抱きしめる。の手が俺の膝近くで力なく揺れているのがわかる。


「―――…好きだ」
「っ!」
が、好きだ」
「な、に、言って…」
「そんな顔、するな」


ゆっくり、頭を撫でる。嫌がる様子は、見せない。俺は、彼女の髪の、シャンプーのにおいに目を閉じて、そのまま驚くほど自然に、彼女の額に口付けを落とした。


「…手塚」
「なんだ」
「……うそじゃ、ないの…?」
「嘘だったら、こんなことしない」
「……手塚の、ばか」
「…そうだな。俺は馬鹿だ」
「ホントだよ!何で…なんで、今言うの…?私…これでも怒ってるのに…、……怒れなく、なっちゃう」


垂れていた手が、しっかりと俺の背中に回る。それを支えにして少しだけ俺から離れたは、澄み切った、…すこし戸惑った目で、俺を見つめた。


「…明日目はれたら、手塚のせいだからね」
「そうだな…どうすれば、はれないですむ?」
「え?さ、さぁ…冷やすといいんじゃない?」
「冷やす、…そうか、なら、氷でも買っていくか?」
「や、そんな、」
「なら、これを濡らしてあてておけばいい」


鞄の中から使っていないタオルを取り出した。それをもって、水道まで行こうと立ち上がる。…すると、背中に衝撃を感じた。右側にのびる影のおかげで、が俺に抱きついているとわかる。…は、震えていた。


「一緒に、いく」
「…俺はどこにも行かないぞ?」
「そうだけど…でも」
「…甘えん坊、なんだな」


ふりかえって、また溢れ出してきた彼女の涙を指で拭って、軽く、唇を重ねた。は目を見開いて真っ赤になり、俯いて、照れくさそうにばか、と言った。


もうすぐ、日が暮れる。