あの話を聞いた瞬間・・・自分でも驚くほど、俺はショックを受けていた。に、好きな人がいたのか・・・そう思うと。
自分の気持ちを自覚した途端に・・・これだ。どうして俺はいつもいつも、肝心な時に行動が遅いんだろうか・・・?・・・といっても、がおれと出会う前からそいつの事をずっと好きだと言うのなら、最初から俺に望みなどないが。

・・・いずれにせよ、俺にはもう望みの欠片もないらしい。とりあえずこれで嫌いになることはないが…うまく話を出来るかどうか。不安だ。

・・・不安だなんて・・・柄でもない。だが、やはり不安だ。俺が変な態度を取れば、が傷つくかもしれない。そんなことは階段から転げ落ちることの数倍はイヤだ。


そんなグダグダとした考えを取り去ってしまおう。そう思って、椅子から立ち上がる。それから日曜日で人気のない自分の担任の教室へと向かう階段を上った。何でもいいのだ、・・・頭が冷えれば。ただそこなら人は居ないだろうと思った・・・それだけのこと。

8組、7組、6組と、前を通り過ぎる。それから大体中心にある4組・・・のクラスの前まで来ると、俺は僅かな隙間から見えた背中に足を止めた。




・・・」




まさかこんな所にが居るとは。はどうやら相当驚いたらしく、勢い良く振り返る。それから俺の顔を一瞬だけ見て、「びっくりした・・・」と小さく漏らした。




「先生、びっくりしたじゃないですか!」
「すまん。そう言うつもりはなかったんだがな」
「わかってますよ・・・」




苦笑したは、少しあきれた様子で椅子に腰をおろす。俺はそんなの近くまできた後、机に腰を預けて目の前にたった。




「なにをしてたんだ?」
「あ、いや。ただボーッと・・・」
「考え事か」
「まぁ、そんなところですよ」




そう言っては窓の外に目をやる。・・・好きな奴のことでも考えているのだろうか。そんな風に考えると、少しイライラしてくる。

ただの横顔を眺めていると、不意にがこちらを向いて、深刻な顔をする。俺は「どうした?」と訪ねて返事を待った。




「・・・昨日の」
「ん?」
「昨日の友達が言ってたの・・・あれ違うからね!」
「っ・・・」
「確かに好きな人は居たけど・・・其れはずっと前の話だからね!」
「あ・・・あぁ・・・」
ものすごい勢いで告げられたので、思わず頷いてしまう。するとは、本当に嬉しそうな笑顔で「良かった!」とつぶやいた。




「なんかずっと誤解されたままだったらイヤだなぁとか思ってたの!」
「・・・そうなのか?」
「そうなんです〜!」




・・・たぶん今の俺の顔は、笑顔だ。自分で意識していなくても、嬉しさが込み上げて来るのだ。そして其れと同時に愛しさも・・・に対する気持ちがどんどんと込み上げてくる。俺は右手をまっすぐと、までのばした。




「BJせっ・・・」




が言いかけたのも聞かず、彼女の頬に、迷わずふれる。色白な、ハリのある、綺麗な肌だった。

そのままでいったい、どれくらいの時間がたっただろう。俺は只、触れた頬を引き寄せるでもなく抱きしめるでもなく、そのまま手を離した。




「さぁ、遅くならないうちに帰りなさい」
「え・・・あ、・・・はい」
「・・・まだ悩みでもあるのか?」
「えっと・・・」




が口ごもるので、俺はわざとらしく一度笑ってみせる。それからワイシャツのポケットから紙とペンを取り出して、走り書きながらも出来るだけ丁寧な字で、書いた。




「俺の携帯の連絡先だ。なにかあったら相談しろ」




は大分動揺しているようだったが、微笑しながらも紙を受け取った。




「ありがとうございます。たくさん相談しますから」
「まぁ、程々にしてくれ」




そう言って、お互いに笑う。それだけで、自分の中の気持ちは大きくなっていく。






明日から携帯電話を見るのが、楽しみになりそうだ。





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2005.07.31 sunday From aki mikami.