3月だと言うのに随分暖かい。ニュースによると、今日は4月下旬並みの気温なんだとか。
「よかったですね浅葱さん、天気よくて!」
「いっそ雨の方が来なくて済んだのに」
そう言って浅葱さんはふて腐れた顔をした。
「だめですよ、雨じゃ!せっかくの桜が散っちゃうじゃないですか!」
「はいはい、そうだね」
「あっ、気のない返事、ひどいなぁ~」
浅葱さんが来たくなかったのは知ってた。だって久しぶりの休みだもんね?家でごろごろしたいんだってわかってる。
でも、どうしても今日来たかったんだ。
「…で?何で急に花見…?」
「さぁ?」
「…あのね」
「浅葱さん当ててくださいよ」
面倒臭い、と呟きながらも、実は考えてくれてるみたい。
…そういう所が好きなんだよね。
思い切って腕を組んでみたら、今日は何も言われなかった。
「あれ、珍しいね?」
「…抵抗が面倒臭いだけ」
「なにそれ~っ」
「うそうそ。寒いだけ」
「ひどいっ!」
睨み付けたら、楽しそうな視線とぶつかった。
浅葱さんって、私のことからかうの好き、だよなぁ…。
「冗談。まぁ…今日は特別、ね」
「え?」
「思い出した、って言うかそもそも忘れてないんだけど。…別にわざわざ桜を見に来る必要はないと思うんだけどね」
と言いながらポケットの中を探る。その些細な動作に、思わず期待してしまう。
…浅葱さんってきっとこういうことすぐ忘れるタイプだと思ってたのに。
「…はい、これ」
「……私に?」
「ほかに誰がいるの」
腕を解いて、私の手のひらにその小さな袋をのせた。
「…一年記念日、でしょ?」
「っ!…うん!」
そう、一年前の今日も、こんな風に桜が舞っていたっけ。
…どうして私たちが、出会って、結ばれたんだろう。
「…じゃなかったら」
「え…?」
「あの時会ったのがもしも桜の下じゃなかったら」
少し遠い目をした浅葱さんが、零すように言った。
「…付き合ってなかったかも」
「…あはは、そうかも」
「会えてよかった?」
不意に向けられた視線。柔らかい色の花が、まるで雪のように舞い落ちる。
「…よかったに決まってるでしょ」
答えると、浅葱さんは笑った。
―――あの日のように。