Scene 02



最近家にいると変なことが起きると話したら、萩間が変なオフダを私にくれて、オマケに"力強い味方"を紹介してくれると言う。何でもその人は幽霊が"見える"んだとか。


うさんくさいなぁ、と思いつつも、私は萩間の後ろを着いて歩いていた。


「ねぇ、その"アサギさん"って本当に信用できる人なの?」
「あたりまえじゃん!何しろこの俺が紹介するんだから!」


…だからこそ信用出来ないんだけど。


「ちょっとツッコミ激しい人だけど、何だかんだいって相談に乗ってくれるから大丈夫」
「…要するに素直じゃないってこと?」
「んー…当たらずも遠からずって所かな」


何だそれは、と私がつっこみたくなるような会話をしつつ、待ち合わせのカフェへの道を辿る。


そのアサギさんと言う人は、私たちより5歳も年上で、働いてて、結構クールな人らしい。それで突っ込み激しいってことは、毒舌なのか?といらん想像をしはじめた自分の思考を、慌てて前方に戻した。


見えてきたのは、私たちがよく通っている、いつものカフェ。


私たちっていっても、別に2人で来ているわけじゃない。大学が終ったあとみんなできて、コーヒーを飲んで遊びに行くって言うのがいつものパターンなのだ。
間違っても私たちは付き合っていないから、勘違いしないように。


中に入ると、いつもいる店員さんが私たちを出迎えた。2名さまですか?と珍しそうに尋ねられると、萩間がそれに屈託ない笑顔でいいえ、待ち合わせしてるんですと答えた。


店員が去っていく姿を確認する前に、萩間は目的の人物を見つけたらしい。私のことなんか振り返りもせずに、向うの席に手を振って掛けていった。


「浅葱さん!」


長身の男が嬉しそうに男の元にかけていくのは、ある意味で気持ち悪い光景だと思う。
おぞましい想像を頭から振り払って、私も改めて萩間の後ろを着いていった。


萩間に呼ばれたはずの彼は、少しも顔をあげずに手元の本に見入っている。


「浅葱さん!会いたかったです~!」
「そう…僕は会いたくなかったよ」


低い涼やかな声がそう言うと、ようやく本が閉じられ、俯いていた顔が上げられた。


…私はその人を、食入るように見つめてしまった。


綺麗な、人。


「萩間、この人は?」
「あれ、いってませんでしたっけ?」
「いってないよ」
「あれ…ごめんなさい。俺の大学の友達の、さん」
「ふぅん」


面白くなさそうに私のことを眺めた浅葱さんは、何の変哲もない女でつまらなかったからなのか、すぐに視線を逸らしてしまった。


「あ、あの…はじめまして、です、よろしくお願いします」
「浅葱圭一郎。よろしく」


淡々と告げるその様子に、きっとこの人は人付き合い苦手なんだろうな、とか勝手に思った。


…心底つまらなそうな顔をしている。きっといきなり知らない人間が来たことに腹を立てているに違いない。


ー、とりあえず座ろうよー」
「あ…うん…」


萩間に言われて、ようやく私は彼の隣に座った。


…何となく居心地が悪くて、俯いてしまう。


さっきから、浅葱さんの視線が鋭い。


「…で、用って何」
「あ、早速本題ですか?どうせならもうちょっとお茶とか…」
「僕はお前らと違って社会人なの。遊ぶ時間なんてないの」
「むー」
「むー、じゃないよ。今日ここに来ただけでも感謝してよね」
「はーい」


周りの空気を感じられないのは、ある意味罪だろうと思う。…私が今こんなに気まずいオーラを出しているにも拘らず、隣にいる萩間が気づいていないなんてよほど鈍感じゃないとありえないだろう。


「実は、の家に最近出るらしいんですよ」
「…何が」
「やだなぁ、決まってるじゃないですか」
「…」


今、心底面倒くさそうな顔で睨んだ。…しかも私の方。 …なんで私が睨まれなきゃいけないのかな。


「それで?」
「相談にのってあげてください!」
「何で僕が」
「俺と浅葱さんの仲じゃないですか~」
「そんな結滞な仲作った覚えないよ!大体この子との仲なんてもっとないじゃないか!」
「そうなんですけど…人助けですよ」
「人助けなんてしたくも…」


「萩間」


私が口を挟むと、二人の会話が途切れた。


「もういいよ。…浅葱さんも、迷惑掛けてすみません」
「え…?」
「大丈夫。一人暮らしなんだし、これくらいでびびってちゃだめじゃない?それに、浅葱さんも忙しい人なんだし」


これ以上言ったら、多分凄くいやな子になる。そうわかっているのに、口が止まらなかった。


…初対面の人にキレるなんて失礼だって、わかってるのに。


「…これ、コーヒー代に使ってください」


浅葱さんの隣に千円札を置いて、私は席をたった。後ろで萩間が呼び掛ける声が聞こえたけど、振り返らなかったし、振り返りたくもなかった。