あのあと、私と萩間は浅葱さんに追い出された。って言っても車で送ってくれたんだけど。
で、その後浅葱さんからメールが来て、今度私の家を見にきてくれると言う。
最初はあんなに嫌がってたくせに…そう考えると複雑だけど、結構嬉しかった。
最初に萩間が言ってた通り。
『ちょっとツッコミ激しいけど、なんだかんだいって相談に乗ってくれるから大丈夫』
まさしくそんな感じだ。
…実は、あれから浅葱さんのことばかり考えていたりする私。恥ずかしいから当然誰にも言ってないし、多分誰にも悟られてないと思うんだけど、実は頭の中は浅葱さんのことでいっぱい。…だってあの日はあまりにも印象的だったし…。
「ー」
「わっ、は、萩間!」
「なにぼんやりしてるの?」
いつのまにか隣に座っていた萩間がこちらをのぞきこんでいた。
「今日の夜、浅葱さんが家見に来てくれるんだけど…明日仕事休みだからって」
「え、そうなの?!」
「うん」
「俺今日バイトじゃん!俺も会いたかったのにー」
「いや、会わなくていいし。別に遊ぶわけじゃないんだから」
「え?」
「…あんたが最初に浅葱さんを紹介した理由、忘れた?」
というと、ぽんと手を叩きながら、なるほど、と言った。うん、気づくの遅すぎ。
「でもいいなー、俺も浅葱さんに会いたいなー」
「はいはい。バイト終ったらくれば?」
「マジで?いいの?」
「いいんじゃないの?」
やったー、と本気で喜んでいる萩間。…浅葱さん、貴方相当懐かれてますよ…。
私は大喜びの萩間を放って、荷物をまとめた。時間を確認しようと思って携帯のサブディスプレイを見る。…すると、メールの着信を知らせる表示。
差出人を見た瞬間、心臓が飛び跳ねた。
差出人 浅葱圭一郎
「っ…」
「なになに、どーしたの??」
驚いている私に首を傾げ、画面をのぞきこもうとする萩間。私は萩間を押しのけて、隠れるようにメールを確認した。
『今仕事終った。まだ大学にいるなら迎えに行くけど』
「なんだよー、のばかー!」
「うるさいよ萩間っ」
ちょっと待って、これ、本当に浅葱さんからのメール?あの浅葱さんが、迎えに来てくれるって…?嘘…。で、でもでもでも…!どう見たって浅葱さんからだし。っていうかいつ来たメールなのこれ?!あ、5分前、よかった…。
『本当ですか?じゃあお願いします♪』
そう返事をして携帯を閉じる。…やばい、顔がにやけるぞ…。
「がにやけてるー」
「うるさいなぁー!」
「もしかして浅葱さんから?」
「ぶっ…!」
「ずりぃー。っていうかいつの間にそう言う仲になったの?」
「そう言うんじゃないって!」
「浅葱さん、あんまり恋愛とか興味なさそうなのになぁ」
そう言って何やら考え込んでいる萩間。なんか、やっぱりかー、とか、以外だー、とか、整合性がとれない言葉を並べては頷いている。
「なによ…」
「ん?別になんでもないよ、気にしないで。あ、それよりさ、もしかして迎えに来てくれるの?」
「えっ…」
「あ、図星でしょ?なら俺も乗せてもらおっと!」
「ちょっと!勝手に決めないでよっ!」
許可もしてないに勝手に決めて、さっさと先を歩く萩間。そう言う事勝手に決めたら、浅葱さん怒ると思うんだけどな。大体家と萩間の家じゃ方向が全然違うじゃない。…とりあえずメールしておこうかな、萩間もいるって。
携帯を開いたら、またメールが来ていた。
『じゃあこないだ会った店で待ってる』
…当然、予想してないだろうね。萩間も一緒だなんて。
でも2人じゃなきゃいけないわけじゃないんだよね。私、勝手に2人きりだって決め付けてたけど、っていうか、2人きりであることを期待していたけど、私の本当の目的は、部屋にいるかもしれない幽霊を撃退して貰うことだもん。
本来の目的より、浅葱さんと会うことが嬉しいなんて…どうかしてるよ。
「…バイト終ったらメールしてね、萩間」
「うん!」
眩い(?)笑顔を見せた萩間は、いつもより軽い足取りで私の前を歩いている。きっと浅葱さんに会うのが楽しみなんだろう。
私だって、楽しみだよ。あれからメールだけだったから会うのは久しぶりだし。…でも
―――私の楽しみは、萩間のとは少し違うの。