Scene 07



2人で映画を見たあと、夕飯の買い物に付き合って貰って、浅葱さんの家に車を止めに戻ったあと2人で買い物袋を下げながら私の家まで歩いた。こういうとき、家が近いっていいなって思う。でも、こんな近く…歩いて10分くらいの距離に住んでたのに、どうして今まで会わなかったんだろう。世の中って不思議。


「こうして歩いてみるとさ」
「はい」
「近いよね、本当に」
「ですねー」


浅葱さんの家の前だって、何度も通ったことがある。買い物に行くときとか、遊びに行くときとか、散歩するときとか。


「でも、こうやって顔を合わせることってなかったんですよね。なんか不思議だなー」
「萩間みたいなこというね」
「えー?」
「そんなにしみじみと思うことじゃないと思うよ」
「そうですか?」
「だって、人間の行動範囲なんて広いようで狭いんだから。それに僕と君じゃ活動時間が違うしね」
「そっか…」
「でも…」


浅葱さんは、なぜか私から目を逸らしてしまった。


「…浅葱さん?」
「いや、なんでもない」


それっきり、浅葱さんは口を閉ざしてしまう。…いや、なんでもなくないでしょう…。ってか途中で話を中断されると凄く気になるんですけど…?


「なんですかー、浅葱さん!」
「いいから。ほらいくよ」


すたすた歩いていく浅葱さん。いや、私と貴方じゃコンパスが違うんですから、もう少しゆっくり歩いてくださいよぅ。
待って欲しくて服の袖を掴んだら、ものすごい勢いで振り向かれた。


「っ、」
「え…?」


え…なんでそんなにびっくりするの…?なに…?


わけがわからず見上げていると、浅葱さんは私の手を振りほどいた。一瞬で思わず目をやると、ほどいたときの勢いで、浅葱さんの手が少し乱暴に私の手を掴む……… えっ!!


「あ、あ、あああ、あさっ、」
「どもりすぎだから。…いくよ」


前を向いたまま一度も振り返らずに、再び歩き出した。…手はつながれたまま。


な、なんか凄く恥ずかしい…んだけど…。


それに、浅葱さんも恥ずかしいみたい。耳が、赤い。


そのまま家に帰るまで、私たちは何もしゃべらなかった。…ただ、つながれた手だけが温かい。