Scene 09



3人で飲み明かすなんて、今日が始めてだ。


結局私も浅葱さんも、あのことについては何も言わなかった。萩間と合流してからは尚更、そんな話にはならなかった。


そうこうしているうちに朝になっていて、浅葱さんと萩間はまるでスイッチが切れたみたいに眠ってしまった。


私は戸棚から線香と、適当なお皿と、居間に置いていた花瓶の花を持って桜の下まで降りた。


…この下にいる人は、どんな思いでこの世にあるんだろう。


前に浅葱さんが電話でいっていた。


浅葱さんが見えるのは、この世に残留してる思念が凝り固まったものだって。それがイコール霊なのかはわからないらしいけど、そう言うものは、思念が強ければ強いほど残りやすいんだって。


煙がふわりと、空に昇っては消えて行く。


「おつかれさま」


手を合わせながら言った。…色々な思いを抱えて、きっと肩に力が入りっ放しなんだろうな。


「…何話しかけてるの」


突然上から声が降って来て振り返ると、うちの窓から浅葱さんがダルそうに身を乗り出した。


「あ…浅葱さん…」


気まずい。やっぱり昨日のことがあるせいだと思うんだけど…今すぐ逃げ出したいくらい気まずい…。


「あ…」
「え…?」


突然呟いた浅葱さん。よくわからず見返すと、目の前、と言われた。向き直って見るけど、特に何も…


「そこに立ってるから」
「っ……!」
「大丈夫、何もしないから」
「でもっ!」
「怖がったら逆に…」
「っ!わかったわかった…!わかりましたっ!!」


あんまり脅かすもんだから、声が震えるじゃないですか!せめてもの抵抗で浅葱さんを睨むと、からかうような視線とぶつかった。


「怖いの嫌いなくせに、そう言うことするからだよ」
「だ、だって…!」
「…ま、そこがいい所なんだろうけどね」
「っ…」


今度の笑いは、すごく優しい笑みだった。消えかけていた気まずさが、またすこし湧きあがってくる。


…ちゃんと自分の気持ちに整理つけないと。