夏休みに入ってからは毎日暇で、遊んだりバイトしたりしていたけど、浅葱さんとは一度も会ってない。浅葱さんは社会人なんだし、それにまだ会う勇気が持てないから。
向こうからメールをくれるわけじゃないし、こっちからも連絡しない。すっかり音信不通になっている。…ただ、萩間とは時々会ってるみたい(そのたびに萩間から自慢するみたいなメールが来る)。
さて、今日はそんな萩間と、野々宮と、友達のと一緒に飲みに来ている。皆で騒げるようにって個室を取って、さっきから大盛り上がり。今はなぜか王様ゲームをしてる…んだけど、負けるのは必ず萩間なんだよね。
ちなみに私は一回も負けてない…けど、かわりに一度も王様になってない。じゃんけん弱いんだな。残念ながら。
―――プルルル。
突然鳴りはじめたのは、萩間の携帯だった。丁度罰ゲームの最中だったので、神の救いの如く電話に飛びついた。
「はいはいー! あ、浅葱さん!」
予想もしなかった名前に、心臓が飛び跳ねた。
「えー?なんですかー?」
「…あ、はいはい、そうですそこですー」
「あがってきてくださいよー」
「やったー!じゃ、待ってますよっ」
最後にそう言って、通話が終了した。…でも、ちょっとまって。
…待ってますよ?
「ちょ、萩間…」
「何ー?」
「こ、ここに浅葱さん…来るの?」
「来るよー。なんで?
「っ!!」
無理。
今はまだ会えない。
だって、私、浅葱さんに返す答え、まだ考えてない。
自分の心の整理だって、まだ全然ついてないんだから。
「ごめんっ、わたしっ…!!」
帰ろう。浅葱さんに会う前に。そう思って、上着とバックを掴んで表に続く扉をあける。
そこに。
「っ…」
すぐ目の前に、その人はいた。
「あ、浅葱さん!やっときたー」
萩間の能天気な声が、私たちの間を横切っていった。浅葱さんの目は見開かれて、視線は私に注がれている。
「…あれ、帰るの?」
萩間の向うから、が尋ねてきた。
「…っ、トイレ」
浅葱さんのいる前で、帰るなんていえない。だって、私は貴方を避けてますって言ってるようなものだから。
かなり苦しい言い訳をして、私はその場を離れた。途中浅葱さんが萩間に引っ張られているのを見たけど、浅葱さんの視線はずっと、こちらに向いていた。