Scene 14



「懐かしいなー…」
「何が」
「ん?一年前」
「…たかが一年前だろ」
「そうなんだけど…でもさ、あれって凄いドラマみたいだよね♪」
「笑いごとじゃないよ。探すの大変だったんだから!」
「…ぅ、ごめんなさい」
「まぁ、もういいけどね」


と答えた浅葱さんは、桜を見あげたまま少し笑った。


「ねぇ、浅葱さん」
「何?」
「…私って、どうしてこんなに浅葱さんのこと好きなのかな」


それは、ずっと疑問に思っていたことだった。


「私たちって、付き合い始めたとき3回しか会ってなかったんだよ?」
「…自分のことなんだから僕に聞くなよ…」
「うっ…じゃ、じゃあ、浅葱さんはなんで私のこと好きになってくれたの?」


そんなことを聞かれるとは思わなかったらしく、珍しく動揺した浅葱さんが目を逸らしながらばか、と呟いた。


「別に理由なんてないよ」
「えー?」
「えー、じゃない。…別に理由がなきゃ人を好きになっちゃいけないって訳じゃないんだから、それでいいだろ。それに、何回あったかも関係ないよ」


言いながら踵を返す。向こうにあるベンチにどかっと座ると、足を組んで顔を背けた。


…確かに、関係ないのかもしれない。


理由なんてなくてもいい。…何回あったかなんて、きっと問題じゃないんだよね。


だって私たち、ちゃんと続いてるじゃない。


私は、手元のプレゼントを開けた。…袋の中には細長い箱が入っている。更にその箱をあけると、桜の花の形をしたネックレスが現れる。


それを取り出して、私は浅葱さんに駆け寄った。


「よくこんなの見つけたね!」
「…なんか春特集みたいなのやってて、そこにあった」
「私の好み覚えててくれてありがと」
「…がわかりやすすぎなの」
「え?」
「一年記念日も。…部屋のカレンダーに、丸印つけてたでしょ」
「あっ…」
「小物、桜の花の柄多いし」
「あ、はは…」
「…ここ座って」


唐突に隣を指差した浅葱さん。言われた通りに座ると、肩をつかまれて、浅葱さんに背中を向ける形になった。手に持っていたネックレスを取りあげられる。


「つけてくれるの?」
「…特別にね」


とかいいながら、いつもつけてくれるんだから。思わず笑いが漏れると、浅葱さんに笑うな、と怒られてしまった。


首にひんやりした温度が触れる。金具がとめられて、浅葱さんの手が離れると、少しの重みが首にかかる。


「似合うー?」
「当たり前だろ、僕が選んだんだから」


素直じゃないなぁ、と思ったことを口にすると、うるさいな、と言って軽く頭を叩かれた。でも怒ってるわけじゃないのはちゃんとわかってる。


「ねぇ、似合ってるー?」


もう一度尋ねると、浅葱さんは軽くため息をついたあと、うん、と頷いた。でも、私はちゃんと言ってほしいの。だから、ちゃんと言って、とせがんだ。


「…似合ってるよ」


その瞬間、ふわりと風がふきぬけた。花びらが散って、ピンク色の雪のように見える。


ピンクは、幸せの色。


来年も、そう感じていられたらいいな。
ね、浅葱さん?