Scene 03



翌日。


浅葱さんのケータイが5時半になったから、それで起こされた。そして、私は浅葱さんについてきてもらって家に戻り、無事いなくなったことを確認すると、お風呂に入ったり着がえたり、とにかく学校に必要な用意をして、すぐ浅葱さんの家に戻った。また来たの、と言う目で見られたから、目的のブツを見せることにした。


「これです、言ってた時計!」


金の、細かい装飾がしてある時計。浅葱さんはネクタイを締めながらそれをまじまじと見つめた。


「…で、どうするのそれ」
「一応友達に返そうと思います。今日あったことも説明して…」
「そう。まぁその友達に他人に迷惑はかけるなって忠告しておきなよ」
「うぅ…ごめんなさいっ」
「ま、謝るくらいならはじめから自分でどうにかすることだね」


キュ、とネクタイを締め終えて、浅葱さんは私の方を怨めしそうに睨んだ。二日酔いとかってわけではなさそうだけど、睡眠時間が足りなかったんだろうなぁ…さっきから眠そうに欠伸をしてて、目が少し赤い。


「あの、浅葱さん…」
「なに」
「メアド…教えてください!で、今日の夜会いましょう!」
「は…?」
「あの、お礼がしたいんです…なんか食事奢りますんで!」
「……じゃ、寿司」
「お寿司ですか?わかりました!」
「回らない方ね」
「回らない方!?そんな!浅葱さんの鬼っ!」
「そういうなら別に…もうこんなことがあっても助けないから、いいんだけど」
「うぅうぅ…!」
「…ふっ」


くすくす、と、突然笑いはじめる浅葱さん。私が何が何だかわからないでいると、ぽん、と肩を叩かれて、冗談、と言われた。


あぁ、何だか凄く、浅葱さんペースだ。


「回る方でいいよ。メアドは勝手に見ていいから」
「勝手にって…」
「そこにケータイあるから」


あごで指したテーブルの上には確かに浅葱さんのケータイが…。でも勝手にみるのって、なんだか気が引ける。でも、朝の準備で忙しい浅葱さんにはいちいち煩わしいことなんだろうなぁ。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えまして…」


ひとこと言ってから、浅葱さんのケータイを手に取った。すごく緊張するんだけど…!


「ついでにアドレス帳に君の登録しといてくれる?」
「ええぇ!?」
「現代っ子なんだから出来ないわけないだろ?」
「で、出来ますけどそうじゃなくて!」
「別に見られて困るもの入ってないから。それよりも少しでも僕に貢献してくれるつもりなら、あんまりそういうことに時間取らせないで。あと戸棚にコーヒー入ってるから、二人分淹れておいて」
「うああぁ、は、はい!」
「僕はブラックだけど、君はカフェオレがいいんなら好きにして。一応牛乳は入ってるから」
「あ、はい」


テキパキと指示をする浅葱さん…の背中は紛れもない社会人だ。あぁ、いつかこの人は偉くなるんだろうなぁ、と思う。


なんだかとっても不思議で、忙しない朝でございました、はい。