Scene 08



翌日。またまた浅葱さんがセットしたケータイのアラームで起きたとき、時刻は8時を半分ほど過ぎたところだった。


で、私は自分がいつのまに眠ってしまったのか考えながら、部屋の中をきょろきょろ見回した。


私の記憶の最後は、浅葱さんの家のリビングで、二人でお酒を飲んで、それから私が浅葱さんに抱き付いたところで終わっている。


けど、私は今見たこともない部屋の、それもベッドの上にいる。


「(もしかして浅葱さんのベッド…かな)」


私は枕元の浅葱さんのケータイを、何となく見やった。目にとまったのは、白いメモ紙。そこには、恐らく浅葱さんの字で………


『トーストとハムエッグ』と書かれていた。


…え、なんですかこれ…わけがわかりませんが。


私はもそもそと布団から起き上がると、メモを持って寝室を出た。そのままの足でまっすぐリビングに向う。


「(熟睡中…ですか)」


ソファの上で布団を顔までしっかりとかぶっている。よく見たらメモの裏面に、『9時に起こせ』と書いてある。


つまり、トーストとハムエッグを、浅葱さんを起こす9時までに用意しておけってことか。


なんだか横暴だなぁ、と思ったけど、これだけお世話になって、しかもベッドまで借りてしまったんだから、これくらいしないと割に合わないだろうなぁ。


私は眠い目を擦って台所に立つと、一番に冷蔵庫を開けた。きっと材料を買いにいかないといけないんだろうけど、どうせなら買う量は少ない方がいいと思って。


でも意外なことに、冷蔵庫の中にはきちんと必要な材料が揃っていた。玉子、ハム、あとその隣りに食パンとマーガリン。…どれもまだ手をつけていないものばかり。


「………」


もしかして、昨日のうちに買って来てくれたんだろうか。まさか…と思ったけど、冷蔵庫を閉めて立ち上がった瞬間ふと目にとまったゴミ箱のなかに近所のコンビニの袋が入っていて、推測は確信に変わった。


「(しかもご丁寧に二人分…)」


なんだか、浅葱さんがすっごく優しいぞ。自分の朝ご飯だから、とか言われたらまぁそうだけど、浅葱さんってもうちょっと…自己中っていうか、亭主関白系っていうか、あんまり自分で動かない人だと思ってた。


「………ありがとうございます」


そう言ってから、私はまた冷蔵庫を開けた。落ちて来る髪の毛を手首のゴムで止めて、昨日のまんまの服をまくる。


着替えはあとで、…怖いから着いてきてもらおう。


さっそく、料理に取り掛かる。他人の家の台所って緊張するけど、きっとちゃんと作らないと怒られるんだろうなぁ。


よし、と気合いをいれて、玉子をボウルに割った。