01.「どうしても君を手に入れたかった」


(11の続き)



大好きだった、両親。大好きな、彼。


あれから彼は、何も言って来ない。10分後にはすぐに警察を引き連れてやって来るだろうと踏んで、綺麗に片付けて、両親宛に手紙まで書いたのに。


電源が消えた愛用PCは、私の心のように静かに、そこに佇んでいる。…ずっと行動を共にして来た相棒。さすが、私の心情まで読み取ってくれている。


シャットダウンしてから2時間がたった。おかしいくらいに、本当に何の反応もない。あんな簡単に負けを認めた私に、幻滅したんだろうか。でも、私は彼と争う気がない。争って勝てるはずはない。否、…争いたくなんて、ない。


本当は決めていたのかもしれない。彼につかまろうと。だから私は今、こんなに冷静なのかもしれない。


ピンポン


来た、と思った。これから玄関を開ければ、警察を引き連れた彼が立っている。もしかしたら彼はいなくて、警察だけかもしれない。


扉を見つめる。もう見ることもない、この家。


…私はゆっくりと扉を開けた。


「―――……!!」


私の体は、硬直して動かない。
―――ドアを開けた瞬間に、探に抱き締められたんだから。


頭が混乱して、何も考えられない。ただ探の温かさとにおいの柔らかさと、抱き締める腕の強さが体に染み込んでいく。…涙が、頬を伝っていく。


私は悲しいんだろうか?わからないけれど、もしかしたらずっと、泣きたかったのかもしれない。


「……
「さ、ぐる」
「………僕のものに、なれ」
「っ!!」
「…愛してる」
「っ、やめてっ!!」


探の腕から抜け出した。…悲しそうな目と言葉に攻められる。「どうして」と。


「私は…私は、逮捕されるためにドアを開けたの!」
は逮捕されたいのかっ!?」
「ち、がうけど……でも」
「『Mirror』の捜査は僕が独自に進めて来たものだし、傍から見れば普通の高校生にしか見えないを疑う人なんていない!」
「でもあなたみたいに、正体を突き止めて来る人だっているかもしれないじゃない!!」
「なら、足がつかないようにすればいい!」
「そうしたら、探は犯罪者を庇うことになる…!」
「それくらい、構うもんか…!」


だん、と、壁と彼の腕に挟まれた。端正な顔がすぐ近くにある。


「…君を手に入れるためなら、なんだってやってやる…!」
「っ…探、」
「君が…が、好きなんだ…!」


ぐっと、強引に唇をかさねて来た。それだけで全身に熱が駆け抜けていく。


「さ…探っ」
…僕のために働いてくれないか?」
「え…?」
「君のハッカーとしての能力を、僕と警察に貸してほしい」
「…どういうこと…?」
「黙っていれば、『Mirror』のことはばれないはずだ。だから、すべてを隠して、僕のために…いや、僕と、生きてくれ」


探の言葉一つ一つが、頭の奥の方にずんと響いていく。…彼が喋る度、わけの分からない感覚に体が支配されていく。


「……


耳元で、ふわりと囁かれた。ぞくりと心臓が跳ねる。


「……わ…か、らない」
「え…?」
「それで、いいのかどうか…わからない」


だって万が一ばれたら、探は逮捕されちゃうんじゃないの?私を匿った罪で…犯罪者になっちゃうんじゃないの……?


「僕はいいって言ってるんだ。後はの気持ち次第だよ」


なんで、この人はこんなに優しく笑えるんだろう?私、探のこと犯罪者にしちゃうんだよ?それなのに。…どうしてこの人は、こんなにも穏やかに私に笑い掛けるんだろう。



「…愛してる」


君は?と、耳元で囁く声が聞こえる。
…答えなんてわかってるくせに。


「わ、たし、も」
「君も?」
「―――私も、探が好き…!」
「ありがとう、


キザで、推理バカで、西洋かぶれで、頭良すぎで、鷹なんて連れちゃってる、変なやつだけど。
それでも、こいつに付いて行けばいいんだと思った。この先きっと何があっても、守ってくれるんだろうなって。有言実行なやつだし。


頬に彼の細い指が遠慮がちに触れて、それからやわらかい口付けが降って来た。幸せって、こんな些細なことでも感じられるんだなって思うと、本当に、この先何があっても絶えられる気がした。









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