03.「私に何でも話してよ」



最近、すごく元気がない気がする。だれがって、他でもないあの先生が。


元気がないというのは体の問題ではなく心の問題…(だと思う)。先生はすぐに無理をするタイプなのでかなり気になるんだけど、私に話してくれないってことは話したくないことなのか、それとも話せないことなのか。それとも聞いたら教えてくれるんだろうか。よくわからないけれど、自分からどうしたの、と聞くのは気が引けた。また余計なことをって言われる気がしたからだ。


で、自分のことじゃないのに私が眠れなくて、今日も水を飲みにキッチンに向かった。そのとき、ちゃんと消したはずのリビングの電気がついていて、ふと思う。


もしかして、先生?


「……先生?」


扉を開けて、そっと中に入る。しかし電気がついているだけで人の姿は見えない。…どうして?一通り部屋の中を見回してみるけど、誰の姿もない。


もしかして、消し忘れたのかな…。


仕方なく電気を消して、部屋を出ようとした…そのとき。


「っ、きゃっ」


いきなり後ろから抱きしめられて大声を出しかけた口を無理やりふさがれた。顔を見なくてもわかる、この手は、この腕は…


「せ、先生っ」
「驚いたか?」
「驚いたよ、もう!」


くく、と先生は笑う。笑いごとじゃないですよ、と返したらわかったわかったというけれど、それでも笑いは止まらなくて私は先生の腕を振りほどいた。


「もう…私部屋に戻りますからね」
「…ちょっとまて」


ドアに手をかけた途端に通せんぼするように閉められて、少し声色が変わった。振り返ると、いきなり唇がふってくる。


「っ、先生」
「水のみにきたんだろ?…いいのか」
「…」


少し、真剣な目。急に恥ずかしくなって、逃れるようにキッチンに向かうと水を並々一杯イッキ飲みした。そんな私を目を細めてみている先生。


どうしたんだろう。先生が私を馬鹿にするのはいつものことだけど、こんな風に甘えん坊なのは初めてで、正直混乱していた。喜んでいいのか悪いのか…なんて考えながらキッチンを出ると、今度はちょいちょいと手招きをされた。素直に従うと、ぐっと引っ張られて二人でソファに座り込む。背中に感じる先生の温度が、少しだけくすぐったかった。


「…先生?」


やっぱりおかしい。そう思って声をかけるけど、反応はなかった。でも、私を抱きしめる力がいつもより強くて。…不安なのか悩んでるのか、何なのかよくわからないけど、多分先生、つらいんだ。


「―――大丈夫」


何が、って言われたら、おしまいなんだけど。でも今の先生には、そういうのが一番いい気がした。


先生は少し顔を上げて私を見た後、また私の肩に顔を伏せた。耳元で小さくすまないと聞こえたけど、私は小さく首を振って、先生にもたれかかった。


「―――…実は、な」


先生の声が、そう紡ぐのが聞こえた。









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