06. 「最後に君と居てよかったと思いたくて」





ロンドン行きの航空券。

それを見つめ、探はため息をついた。…そして、ほんの数分前に見た、彼女の涙を思い出す。チケットの日付は明日になっている…つまり、探は明日、ロンドンに旅立つのだ。それを彼女に打ち明けて、泣かれてしまった。悲しくなったというよりは、いままで黙っていたことを怒ったようだった。探としては、心配をかけまいとして黙っていたところもあるのだが、それが逆に裏目に出たらしい。


だが、探とて本当にただ心配をかけまいとしていたわけではない。彼女の性格を考えても、突然居なくなった方が心配するだろうし、素直に受け止められず、ロンドンまで追いかけてきたりするかもしれない。だが、いえなかった。正確に言えば、「言ってはいけないので黙っていた」。―――…彼女なら、当然のようにロンドンまで着いてくるというだろう。そして、どんな手を使ってでもロンドン行きのチケットを手に入れ、知らない間に渡ってくる。それぐらいは、やりかねないのだ。

いま、彼女は受験生。普段ならば自ら進んで連れて行くところだが、今度ばかりはそうはいかない。今度の事件はずいぶんてこずりそうなのだ。ロンドンなんかに連れて行って、成績優秀な彼女が行きたい高校にいけなかったら、困る。

探はもう一度深くため息をついた。


「ご立腹の我が姫も、一日経てば泣きやむでしょう」


決して、もう会えないわけではない。半年以内には必ず帰り、彼女の勉強を見てやらなければいけないのだから。外国暮らしが長い探と違って、彼女はあまり英語が得意ではない。


「(やれやれ…)」


隣の部屋は、彼女の自室になっている。おそらく今頃は、泣き疲れて眠っているだろう。探は重い腰を上げた。広い廊下に見える、プレートのかかった部屋。探はその部屋のドアをそっと開けると、スタンドライトに照らされたベッドに沈む彼女を見つけた。

思ったとおり、あの後ずっと泣いていたらしい。ベッド脇に座り込み、右手で彼女の髪を柔らなく撫でた。


「―――、ん」


探の行為に、彼女がわずかに反応を示す。普段、寝ている間は大抵のことをされても起きない彼女が、だ。


「ん、さ、ぐる?」
「ごめん、。おこしちゃったね」
「だいじょぶ。 それより、」


ぎゅ、と探の服をつかんで、しがみつく


「ごめんね、」


眠気のこもった声で、ぽつりともらす。探はらしからぬ行動に思わず目を見開いた。


「わかってる。…今年受験だもんね。私、探と違って頭悪いから、心配なんでしょ、授業遅れるの。…さっきは嫌いなんていってごめんね。…うそ、だから」
…君ならわかってくれると思ってたよ」


探はそう言うと、きつくを抱きしめた。そして改めて、自分の恋人の利口さに感謝した。おかげで最後まで、彼女と一緒に居られる。


胸の中のは、またすうすうと寝息を立て始める。探は彼女を抱いたまま、布団にもぐりこんだ。


深い眠りに落ちる二人の顔は、この上ない笑顔だった。









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#06
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