09.「きっと私がいなくなったら、君は探してやくれないよ」



「―――雨の日に屋上に行くバカがどこにいるんだ」


そう、彼に言われたのはいつだったかな。もうずいぶん前で覚えてない。確か一年のとき…露の時期だった気がする。


もうすぐ台風がやってくるといっていた。大型の、台風15号。学校は休みにならなかったけど、体育の授業はすべて中。本当は、屋上も閉鎖されているはずだった。けど私はここの開け方を知ってる。少し鍵をいじくって、鎖をとけば簡単に入れる。…探が教えてくれたことだ。


教えてくれた彼は、ここにはいない。否、日本にはいない。私に余計な気持ちを残して、さっさと去っていった、キザな名探偵。


授業中だけあって、学校の周囲に人影はない。私の差す赤い傘が、誰かの目にとまることはない。


濡れていく制服。
傘を打つ雨音。
湿気た空気。
強い風。


すべて、すべてが、私だけのものだ。


だったらいっそ、とけてしまいたい。とけて消えてしまえたなら。
貴方がいない此処にいても、何も満たされるものはない。
それなら空にとけて、あの青や白一杯に、冷たい雨に、強い風に、満たされたい。


風にあわせてきしきし揺れる柵。もろく、はかない悲鳴を上げる。


『逢いに来て』
『寂しい』
『探して』
『好き』
『―――もう、消えたい』




「―――――――消えるな」


不意に、そんな声が聞こえた。それは確実に背後から、…すぐ後ろから聞こえるのに、臆病な私は自分を信じられない。振り返ることも、できない。


信じられないほど、足が震えた。


「僕に黙って消えるなんて…許さない」


いままでより強く、風が吹きぬける。赤い傘は飛ばされて、空を漂って、校庭に落ちていく。横から突如現れた、ビニール傘。差し出したのは見覚えのある―――否、見慣れすぎた、見たかった、白い手。


「風邪を引いても…しらないぞ」


告げられ、渡された傘。触れ合った温かさは、紛れも泣く。ぱさりと掛けられた青い青い温もりは、心地よくて溶けていきそうだ。


『―――雨の日に屋上に行くバカがどこにいるんだ』


「――――――――――バカ発見」


そんな言葉しか出てこないけど、振り向いた私にキスをくれて、ありがとう。


探す間なんてないくらい、すぐに見つけてくれてありがとう。









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