11. 「出会わなかったら、こんな思いしなくて済んだのにね」


(21の続き)





はっきり言って、彼の頭のよさは普通じゃない。二文字でひどい言い方をするなら『異常』。高校生探偵とか言われているのもうなづける。…いま、私の愛用PCの画面に開かれているチャット画面。…そこには、英語でこう書かれている。『Hello. I'm saguru hakuba.』。


…私が仕事用に使っているフリーメールアドレス…といっても、韓国サーバーを四重に経由したあと、日本のフリーアドレスで更に二重してるから、普通の人の仕事用とはちょっと違う。登録した個人情報はでたらめ…というか、実在する別人のものを適当に選んだものだし、名前は偽名。…ちょっとやそっとじゃ見破られないし、元を突き止めることもできないだろう。そう思っていたのに。…この人は、違う。彼ははじめから、私を『Mirror』じゃないかと疑っていた。警戒はしていたものの、まさか逆にハッキングされるとは。


『こんにちは、Mirror』


突然日本語でそう入力された。…それは、彼が犯人を日本人・・・私に特定している証拠。もう、逃れることはできそうにない。否、私なんかの頭では到底無理だろう。


『こんにちは、白馬探さん』


これで、彼は気づいただろう、私があきらめてしまったことを。…アルファベットで書かれた名前をノーヒントで漢字に変換できるということは、相手を知っているということ。ましてや彼の名前は珍しい。いくら彼が高校生探偵で有名だったとしても、その筋に精通している人、もしくは彼を知っている人間でなければなかなかわからないだろう。それに、彼は日本でより、ロンドンでのほうが有名だ。

彼はきっと、手が止まっているだろう。画面の中に、私の姿が見え隠れしているのだろうか。


『あきらめるんだね…


私の名前が入力される。…もう、後戻りはできない。


『そう、あきらめるわ。…どうぞ逮捕でも何でも、勝手にしてちょうだい…探』
『困ったな…それでは張り合いがない』
『張り合う気なんて、元々ないわ。あなたに勝つことなんて、私には不可能だもの。…さぁ、私は逃げも隠れもしないから、今すぐにでも捕まえにきて』


その言葉を最後に、私はウィンドウを閉じた。早々とシャットダウンして、ベッドにもぐりこむ。


―――…好きだ。 彼が好きで、好きで。


どうして出会ってしまったんだろう。出会わなければ、こんな思いしなくて済んだ。…父さんと母さんが死んだとき、誓ったのに。絶対につかまらないと。なのに。


目を閉じた。
あの日見た、きれいな彼の笑顔が、まぶたの裏に浮かんだ。









Love story 30 title
#11
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