12. 「ホラ、気づいてよ」





いま"ここ"に居て、一月前のことを思い出した。私が道に迷って、知らない道をとぼとぼ歩いていたら、いきなり前からやってきたバイクを間一髪でよけ、その反動で転んで動けなくなった時。走るのなんて得意じゃないくせに、息を切らして探しにきてくれた、探。かけてくれた最初の言葉は、「大丈夫ですか?」だった。いつも冷静な彼がひどくあわてていて、すごく印象に残っている。


改めて、自分の今の状況を思い出した。…探と一緒に事件の調査をしていて、突然、後ろから襲われた。気を失ったらしく、気がつけば…こんなところに監禁されていた。真っ暗意、おそらくは廃ビルか何かだろう。わざわざアメリカまではるばるやってきて、これだ。しかも探にすっかり迷惑をかけてしまった。


幸いなことは、縛られていないことか。多分、私をただの日本人の女だと思って、どうせ逃げられるはずはないと判断したのだろう。殺されなかったのは、のちのち追い詰められて逃げるときの人質にでもしようと目論んだからかもしれない。だが、私だって探にくっついていろんな事件を見てきたし、元『Mirror』っていうプライドみたいなものもある。…だまっているなんて、絶対にいやだ。


巨大な灰色のドア。私は、倒れたときにくじいただろう足がズキズキ痛むのも抑えて、ノブを回す。もちろん開くわけはない。私は非常時のために持ち歩いていたヘアピンを取り出した。私が両親から学んだことは、ハッキングの技術だけではない。ハッカーをするなら、何かあったときのために、己の身を守るすべを身につけなさいというのが、父さんの口癖だったからだ。だから道具さえあれば、ピッキングなんてお手の物だ。…探が私と行動を共にする理由は、これがひとつだ。ほかにもいろいろ、技術的なことならできる。…彼のように推理することは苦手だけれど。


カチッと音がして、ドアノブが回った。きしんだ音を立てて、ドアが鳴く。向こう側には、幸い誰も居なかった。きっと今頃は、犯人は探に捕まっているんだ、そうに違いない。きっともうすぐ探が、私を見つけ出してくれるはずだ、あの日のように、あわてた顔をして、走ってきてくれるはずだ。


探、探。  私は心の中で、探の名を呼び続けた。


「―――!」


遠くから、叫び声が響いた。あの時と同じ、叫び声。


「探!」
!!」


階段を上ってくる足音。私は痛む足も気にせずに立ち上がると、目の前に現れた彼。息を切らしているのも気にせずに、私を抱きしめた。


…大丈夫、ですか?」
「大丈夫だよ、…ごめんね、心配かけて」
「僕のほうこそ、ごめん。…怖い思いさせて」
「探偵の恋人は、図太いんだから…ぜんぜん平気よ」


探の後ろから、ばたばたとFBIが入ってくる。それと同時に私を捕まえたらしい犯人も。…私は急に恥ずかしくなって探から離れようとしたけど、探は逆に私をきつく抱きしめ、深く、長いキスをした。


あの日よりもずっと優しい彼が大好きで、私は彼に身を任せた。









Love story 30 title
#12
partner:saguru hakuba