14.「手を繋ごうよ、そしたらもっと通じ合えるでしょ」





留学先で会った白馬探。彼は優秀な探偵であるが、実は高校生で、しかも同い年とか。


「今日もお綺麗ですね、さん」


私の目の前でそんなふざけたことをぬかすこいつ、白馬探 17歳。イギリスなんだから英語を使えって、英語をっ!!大体あんたがいることで私の心のお天気は最悪だ…!折角お気に入りのカフェで一服しようっていうのに…!


「…話しかけないでくれる…?」
「おや、なぜです?あなたを助けた救世主を拒むおつもりですか?」


そう、私はこいつに助けられた。


連続通り魔の被害にあい、乱暴されかけていたところを、なんの推理だか知らないが突き止めて、警察とともに撃退してくれたのが、彼。


確かにそのときはとても感謝したし、素直に格好いいと思った。顔は思い切り日本人なのに色素の薄い髪の毛とか、優しい口調とか、綺麗な笑顔とか、澄んだ瞳とか。…でも、でもね?


『好きですよ、さん』


…とか。


『美しくてどこにいてもわかります』


……とか。


『あなたの美しさにこのが負けてしまいます』


…………とか。


今時こんなこと毎日言われて嬉しいですか。っていうかぶっちゃけうざくないですか。


やな奴だとは言わない。ただ、ウザイ。このウザさがなくなればいいのに。


「おや?どうかしたんですか溜め息なんてついて」
「あんたのせいよ、あんたの」
「なるほど、僕のことを思い出すぎてため息が出たんですね?」
「………死ぬ?」
「はい、あなたが死んだら」


超満面の笑みなんですけど。ってかそんな台詞よく言えたもんだな。
けど、こいつは私より早く死にそうだ(だって弱そうだし)。


さん…なにか余計なことを考えてませんか?」
「えー別にー」
「うわっ、心籠っていませんね!悲しいなぁ」
「嘘をつくな嘘を」
「嘘?嘘なんて僕はつきませんよ」
「いっつも犯人相手にカマかけてるのは嘘じゃないのかっての」
「でもさんに嘘はついていませんよ」


…まぁ、確かにそうかもしれない。私が黙ると、彼はくす、と笑った。
うわっ、腹立つこいつ…!


「…ばか」
「心外ですね、私は本当のことを言っただけなのに」
「あんたの笑い方が腹立つっての」
「だって、さんがかわいかったから」
「ほら。それが嘘だっ!」
「え…?」


私の言葉に、白馬はわずかに眉をつり上げた。…あ、あれ?私なんか怒らせること言った…?


「え…あの、白馬…?」
「……僕は嘘をつかないと、言ったでしょう」
「そう…だけど…」
「あなたがかわいい。本当にそう思ったから言ったのに、どうしてあなたは嘘だなんていうんですか?」
「え…だって…」
「それほどまでに僕は信用されていないということですか?」


いや、別にそういうわけじゃないんだけど…。でも白馬は本気で怒ってるみたいだし…まぁ確かに考えてみればちょっと悪かった気もする。


「…そうじゃないよ。ただ、…恥ずかしかったから。ごめん」
「あ、…そんなつもりじゃ」
「いや、今のは私が悪かったかも…。だから一応、ごめん」


白馬が慌てふためいて、すみませんと謝ってきた。いつも余裕たっぷりのこの人がこんなに動揺するのって、何だか不思議だ。


「ただ、僕は本当に秋さんが好きなんです。それだけは、ちゃんとわかっていただきたい」
「う…うん」
「ついでに、もっと素直になってくださるとうれしいんですが」
「え…?」
「だって…好きでしょう、僕のこと」
「~~~~~!!」


何だこいつ!ナルシストにもほどがあるんじゃないのか、おい!誰だこんなふざけたやつ育てたの!(警視総監以外の何者でもない。その事実がまた悲しいわ…)


「っ、バカ!」
「またそんな事いって。…すき、でしょう?」


じ、と見つめられた。うわ。恥ずかしいなぁおい。…わかってる、わかってるよ。本当は…。ただこいつがあんまりにもナルシストですきすきうるさいから、認めるのがいやなだけ。…それに、私も、なんて答えるの…恥ずかしいじゃない。


「どうなんですか?」


いつの間にかテーブルに頬杖をついて、これでもかってくらい顔を近づけられて、…うわぁ、はずかしすぎるっ…!!


「す、すす、す」
「す?」
「す…す、好きよっ!た、多分!」
「…多分?」
「もういいでしょ、ばか!」
「照れ屋さんですね」


くすくす、と笑う声に腹が立つ。こんなことされて普通でいられる人に疑問を持つ私がおかしいのかしら。至極普通の反応だと思うんだけど。


…なんてこと、こいつに思ってもダメなんだ。だってこいつは常識じゃ語れない。その推理力も、気障な正確も、実は綺麗な顔も、何もかも全部。


「…それでは、いきましょうか」


突然そう言ってたちあがった白馬。わけがわからず見あげると、彼は伝票を持ち、空いた手を私に差し伸べてきた。


「デートしましょう」
「で、デート?」
「はい。貴方の行きたい所でいいです。…行きましょう」


僅かに目を細めた、優しい笑い。彼がそんな風に笑うことは少ないけれど、実は私が惹かれたのはその笑顔だったりする。


「…仕方ないなぁ」


彼の手をとると、ぐっと引っ張られた。立ち上がって、そのまま手をつないで歩く。


こんな日を、ずっと待っていたような気がする。それが悔しいような、嬉しいような。




太陽が、綺麗だな。









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