15.「いくら悲しくても、幸せになるためなら惜しくない」



「いってらっしゃい」


旅行カバンを傍らに汽車に乗り込む先生に、私は最高の笑顔で言った。


「…もう少し悲しそうな顔をしてほしいな」
「どうして?泣かれたら困るじゃない」
「確かにそうだが…」


別に一生会えないわけじゃないんだから、泣いたってしょうがない。と思う私は冷たすぎるのだろうか。でも別に分かれるのがうれしいわけじゃないし、どっちかっていうと、かなり悲しいし、寂しいし…。でも、そういうのは言い出したらきりがない。


「私が泣いたら先生心配しちゃうでしょ。だから泣かないの」
「…そう思ってくれるなら、うれしいな」
「えへへ、でしょ?だから、私のことなんか気にしないで思う存分ナゾトキに没頭してね!」
「……言葉にとげがある気がするんだが」
「気・の・せ・い! だよっ」


舌を出して笑ったら、先生は私の頭をぽんぽんたたいて微笑んだ。…そのとき、発車を告げるベルがやかましい音を立てる。


「じゃあ、いってくるよ。留守を頼む」
「うん、いってらっしゃい」


ぱたん、と扉が閉まる。少しずつ遠くなっていく先生に大きく手を振りながら、私は思った。


確かに離れるのは寂しい。寂しいけど、待てば待つほど次に会うときの感動って大きいんだよ。だから私は泣かないし、笑っていってらっしゃいって言えるの。


帰ってきたら教えてあげよう。なんて計画を立てながら、私は一人研究室への道をたどった。









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