月明かりの下、殺生丸はすっかり疲れ果てていた。
…涙を流す、自分の連れの女。弱さを見せることが何よりきらいなはずだったのに。
言葉を掛けようにも、何と言っていいかわからない。
大体何故泣くのか、わからないのだ。
「―――、殺生丸」
弱々しく体を起こす。頬を伝う涙が月明かりに煌いていて、妙に綺麗に見えた。
「…今日のことは、忘れて」
目をこすって、立ち上がる。…伏せるほど泣いていたはずなのに、今はもう、前を向いて歩こうとしている。
「…忘れてやってもいい。だが…何があった?」
彼女が泣いているのが心配、と言うわけではない。ただ、何故泣いているのかわからなければすっきりしない、と言うだけ。あんなに困らせておいて、何も言わぬのか、とそう言う事だ。
「―――父が、死んだの。誰よりも大きくて強い存在だったのに」
「―――、」
「あの、最低な女を…私を捨てたあいつなんかを、守って死んだの」
母を守って、父が死ぬ。その言葉に、殺生丸は自分を重ねた。彼も、自分の母ではないが、父がそのひとを守るために死んでいった。
闘牙王が死んだとき、彼は泣かなかった。泣くようなことではない、むしろ恥じねばならないと思った。だから、素直に父が死んで悲しいと涙する彼女に、何か特別な気持ちが湧いてきた。
「…泣きやまなくていい」
「えっ?」
「…見なかった事にしてやる。だから…泣きたければ泣けばいい」
「っ、」
「いや…泣くのは嫌いだったな。…だが、涙が出るのなら、我慢する必要はない」
「―――――っ」
つ、とまた彼女の頬を涙が流れていく。その姿を見ながら、殺生丸はもう見る事のかなわぬ父に思いをはせた。
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