20.「いくら想っても、君には会えない、わかってるよ」



国光と別れて、もう1年が経つ。最近ではすっかり、電話もメールも少なくなったけど、時々くる電話の声は元気そうで、それだけでも私はほっとする。


私がいなくても、ちゃんと元気でやってくれている。そのことが嬉しいけれど、悲しくもある。


国光は、やっぱりテニス部に入ったらしい。いつも一緒にやっていたけれど、国光の上手さは郡を抜いていたから、当然だと想う。だって、4つ上の人にも勝っちゃったんだよ?


私は、剣道をはじめた。ずっと興味があったんだけど、なかなか始める勇気がなかったから、思い切って部活に入ってみた。やってみたらとてもつらいけど面白くて、毎日練習してる。


私は部屋にある子機に手を伸ばした。ダイヤルするのは勿論、国光。…だけど、ちゃんと出てくれるかな、とても心配になる。


部活から帰ってきたら、まずはお風呂に入るんでしょ?それからご飯を食べて、勉強して、道具の整備して、寝るんでしょ?ほら、私との電話が入れる隙なんて、ないんだよ。…そう考えたら、ちゃんと出て貰えるか不安で仕方なくなる。…私の手は、そのまま止まってしまった。


最初の3ケタ。それしか押せなかった。…何にもない時に電話を掛けることが出来ない。それは、私が臆病だからってちゃんとわかってるよ。でも、国光に嫌われたくないから、何もできない。


こんなとき、前みたいに会いにいけたらな、と想う。でも、わかってるんだ。


…いくら想っても、もうあえないんだって。


もう、会えないんだね?って心で問いかけたら、うん、って、もう一人の自分が返事をするの。


ねぇ国光?もし少しでも私のことを思い出したなら、お願い、電話を掛けて?私からは、勇気がなくて掛けられないから。…ほんの些細な事でもいいから、私に教えて欲しい。会えない分、声が、聞きたいの。


なんて想っていても無駄なんだって、わかってるんだけどな。銀杏を観ていたら、考えずに入られないんだよ、国光。









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