22.「結婚したいとか思ってるよ。…でも君はどう?」





リナリーが結婚するってさ


「えぇえぇええぇぇえぇ!」


奇声をあげながら飛び起きるのは、愛しのダーリン(とも言いたくない)。いや、別に付き合ってるわけじゃないんだけどさ。


だって彼はリナリーに溺愛中で、私の入る隙なんてないんだもん。やきもちってか、半分呆れ?


「おはよ、コムイ。いい加減書類整理してよね」
、おはよう」


ふぁ、とあくびのあと、のびる。私は彼の上にかけておいたブランケットをたたんでソファの脇に置くと、寝癖のついた彼の髪の毛をポケットの櫛で梳いた。


「髪、ぐちゃぐちゃ」
「あぁ、ありがとう」


あとは彼の上着を彼にかぶせて、帽子を手渡し、コムイ室長の出来上がりだ。


「ほら、リーバー班長がお待ちかねだよ」
「んん…めんどくさいなぁ」
「わがままいわないの。ほら、早くいきなさい、リナリーも待ってるわよ」


リナリィーーーーーVv


半ば気持ち悪い声をあげて去っていくコムイ。私はその背中を見送って、彼が今まで座っていたソファに腰をおろした。


―――超豹変。


彼はシスコンだ。誰が見てもそうわかるシスコンなのだ。だから、時々腹がたつ時がある。いちいちいらついていたら身がもたないことはわかってるんだけど。


もう、考えるだけで憂鬱だ。









◆ ◇









コムイは一度寝ると起きないのは百も承知だ。リナリーと言う名前がでない限りは。


…だけど、幸せそうな顔をして眠るこの人を、どうしても他の方法で起こしてみたい。…そんなくだらない事に、私は挑んでみた。


「……コムイ」


まずは普通に、名前を呼んでみる。だが、もちろんの事、効果はない。


「ちょっと、起きなさい」


ぺし、と頬を叩いてみるが、無反応。今度は胸ぐらをつかんで持ち上げ、揺すってみるけど効果なし。…とことんだな、コイツ。


「…コムイのばかっ」


罵声を浴びせても、起きやしない。本当は起きてて、聞こえてないふりしてんじゃないかと思うほどだ。


やっぱりリナリーのことにならないと、この人は動かないんだろうか…?


「―――…そんなんだったら、私誰かと結婚しちゃうぞ」


別に恋人でもないのに、つぶやいてみる。けれどコムイは相変わらず目をつぶったままで、脱力感と一緒に、なにか熱いものが湧き上がってくるのを感じた。


―――あぁ、そうだ。これは涙だ。


そんなもの、黒の教団に入ったときに、とっくに捨ててしまったはずなのに。今私は、コムイが起きないくらいで涙をながそうとしている。


…急に、恥ずかしくなった。自分がおかしくなった気がした。


起こしたらかけてあげるつもりでもっていた彼の上着を、そのまま彼に投げつける。涙のこらえ方なんて忘れてしまった私は、両目を拭いながら立ち上がった。


もう、早く出ていこう。彼の顔を見ていたら、自分が愚かしく感じられる。


「―――…誰が、誰と結婚するって…?」


不意打ちのように聞こえたその声に、私は思わず涙も拭わずに目を見開いた。そろそろと振り返れば、ソファに横を向いて寝そべり、片腕で自分の顔を支えたコムイが、険しい表情を浮かべている。


「誰が、誰とだ?」


わざと区切ってゆっくりと繰り返すさまは、まるで怒っていますとでも言わんばかりだ。だが、怒りたいのはこっちの方。


「私がっ………」


強くそう言い出したはいいものの、先に続く人物が見当たらない。


「り…リーバー班長と…?」
「ほぉ?もしそうだとしたら、彼には即刻やめていただかないとね」
「は…なんで」
「僕のをさらって行こうとするんだから、当然だろ?」
「なっ…」


"僕の…"っ!?


「なっ…なに訳わかんないこと言ってんのよっ!」
「? 意味わからないかな?いつもあんなに愛情を表現しているのに」
「わかんないわよ!第一あんたが愛情を表現してるのは、リナリーにだけでしょうが!私が結婚するって言っても、ひっぱたいても起きなかった…」


とと、と私は口を塞いだ。危ない、さっきの行動がばれてしまうじゃないか。


「あのときなら…もう起きてたよ」


………はぁ?


「なっ…なに言って………」
「本当だよ。君がコムイって呼んでくれたら、眠っててもわかる。最初に部屋に入ってきてから、「ぐっすり寝すぎなのよ」って言ったので起きたんだ」
「う、そ…」
「本当本当。なんなら入ってきてから言った言葉、全部言ってみてあげてもいいよ」


ふっと笑みを浮かべるコムイ。その表現の憎たらしさといったら。


「…ケッコウデス」
「そう? ……それじゃ、早速さっきの続き、聞きたいな」
「へ……?」
「本当は、誰と結婚するの?」


はめられた、と思った時にはすでに遅く。彼は私につめよって来て、目の前でいやーな笑みを浮かべた。


「っ…」


コムイの顔が、こんなにすぐ近くにある。わざと目を合わせてきて、顔が赤く染まってい
くのがわかった。


「……誰と、結婚するの?」


僕しかいないよね?

彼の無言の目がそう語る。…あぁ、なんて恥ずかしいんだろう。でも、私は今、彼のその目がたまらなく嬉しいんだ。


「こっ……コムイと、です」
「…よくできました」


ふんわりとした優しい笑顔を浮かべたあと、額にキスがふってくる。ちゅ、と小さく音をたて、私はとうとう、耳まで真っ赤になった。


「―――ばか」


彼の行為に身を任せる。そうして、ゆっくりと目を閉じる。この上なく感じた幸せは、彼の手の温かさだった。









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#22
partner:Komui Lee