26. 「また明日もあえる?」





花の季節と言えば、やっぱり春。私はお気に入りの桜の木を眺めていた。

公園の真ん中に一本だけ、ぽつんと立っている。今時期が丁度満開なのに、みんなはもっと大きな公園に行くから人は全然いない。

木の周りだけ、花びらが絨毯みたいに見えた。まるで異世界に入りこんだ気持ちになって、ついつい笑顔になる。朝の柔らかい光が気持ち良くて、私はゆっくりと目を瞑った。

先程よりも余計に温かく感じる光に、まるで包まれているようだ。



さく、と砂を踏む音がした。ゆっくり目を開けると、となりにいつの間にか人が並んでいる。誰だろうか、とじっと見つめていると、彼はこちらを振り向いて、ふっと笑った。


「…美しいですね」
「え…あ、桜がですか? そうですね」
「いえ、勿論桜もですが…あなたも」
「―――、」


なんてキザな言葉だろう。でもそれも、彼が言うと似合ってしまう。…まるで、王子様のような姿。整いすぎたその顔を、私はただ呆けて見つめた。


「…桜の中に見えたあなたは、とても美しかった。まるで、桜の精のようでした」
「そっ、そんなことはっ…!」


彼の言葉に、顔が紅潮していくのがわかる。本当に、恥ずかしいなんてものじゃない。だが同時に、嬉しさみたいなものも感じていた。


「美しいお嬢さん、お名前は?」
「あの…です」
さん…あなたは、明日もここにいますか?」
「えっ…」
「僕はもう行かなければいけませんが…明日も、ここにきます」
「―――、」


彼はそれでは、と言って歩き出した。私は思わず、彼を呼び止める。


「あの…あなたの名前は?」
「…白馬、探といいます」
また…私もまた明日、同じ時間、ここにいます。だから…またあっていただけますか?」


彼は、ゆっくりと振りかえった。その時浮かべていた笑顔が、とても綺麗で。


「えぇ、是非。僕からもお願いしますよ」


彼の言葉に、思わず心臓が高鳴った。









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