「ごくろうさまです、さん」
きた、 は目の前の人物に思わず身構えた。同じ高校に通う、白馬探、17歳。彼は毎日のように、部活中のの元に訪れた。それも決まって、6時45分に。その時間は、ちょうど部活の片づけが始まる時間であり、の自主練の準備をする時間でもある。
「またきたわね…白馬探」
「またきましたよ。あ、私にかまわず練習してくださいね」
「できるかっ!」
「なら、休憩しませんか?今日もずいぶんと汗だくですし。はい、タオルどうぞ」
勝手に話を進める探からタオルを受け取り、顔と首筋の汗をふき取る。それから、冷たいコーヒーを差し出す彼の隣に座った。
「あなたも物好きよね。私みたいなのについて回って、楽しい?」
「楽しいですよ、とても。あなたへの興味は尽きません」
「…ヘンタイ」
「冗談ですよ」
心の中だけで本当かよ、と突っ込みをいれ、コーヒーのプルタブを開ける。一口含んだら、濃いめの味が口内に広がった。
「大体、何で私なわけ?剣道やってる女なんて、たくさんいるのに。汗臭そうとはいわれるけど、ちやほやされるなんてはじめてよ?」
「剣道をやっている人が好きなわけじゃないですよ。剣道をやっている"あなたの"横顔がとても素敵だった…つまりはあなたに一目惚れです」
「―――っ、」
彼が自分をすいてくれていることはいやでもわかるけど、改めて言われると照れるもので。は少しだけ顔を赤くすると、ふいっとそっぽを向いた。
「だ、だったら、何で話したこともなかった人の所にこれるのよ。扉の隙間からでものぞけばいいじゃない?」
「遠くからあなたを見ているだけでは、満足できないんですよ」
「―――っ、わがまま!」
「わがままで結構ですよ」
探がくすくすと笑みをもらすと、は振り向いて探の肩を軽く二、三回たたいた。それでも彼の笑みはおさまらず、の頬は見る間に紅潮していく。
「ばかっ」
精一杯強がるが、それが帰って裏目に出ていることに、彼女は気づいていない。
それに気づいたとき、二人はどうなっていることやら。
Love story 30 title
#28
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