29.「君と出会えた事は、私の人生一大イベント。」
「…」
「なにー?」
「……そこ、いるよ」
「っ!!!」
浅葱さんの指差した方向から、私は3メートル後退った。
「ゆ、ゆゆゆ、ゆ…」
「うん、幽霊」
「そそそそそそそ、そん!」
「どもりすぎで何が言いたいかわからないから」
だ、だって幽霊が!幽霊が!私は浅葱さんの後ろに隠れながら言い訳をした。
浅葱さんに出会ったのは萩間の紹介。付き合い始めたのは最近なんだけど、彼と付き合い始めてから私の生活はガラッと変わった。
理由はもちろん、浅葱さんには幽霊が見えるから。
普段幽霊なんてものの存在を意識していなかったのが、浅葱さんのひとことで急に隣にいるよ、とか知らされたり、映画を見ているときとか、あ、映ってる、なんて話になったり…。
とにかく怖い者が嫌いな私の生活に怖い要素が加わってしまった。
それでも浅葱さんは気を使ってくれてるみたいで、特に害がないものについては何も言わないらしい。近づかないほうがいいもの、危ないと感じたときだけ、私に注意を促してくれる。
「私、浅葱さんに会えてよかったー!」
「は、突然なに言い出すの?」
「だって浅葱さんがいなかったら私、もう取り憑かれてたかもですし!」
「いや、それはない。お前も萩間と同じでそう言うのにはめっぽう強いから」
「でも!怖い思いしなくて済んでます!」
「…逆に怖い思いしてるんじゃないの?」
「え???」
「だって、知らなくてもいいことを知らされてるんだから」
呆れた様子で腕を組んで、こちらを一瞥した浅葱さん。
「…言われてみると…確かに」
「でしょ。…僕と会わないほうが幸せだったのかもね」
「っ!馬鹿なこと言わないで下さいよ!」
流石に今のにはかちんと来て怒鳴ったら、浅葱さんにうるさい、と怒られてしまった。でも、今のは結構失礼な言葉だと思う。…だって。
「…私、浅葱さんのこと大好きなんですよ。…好きだから、付き合ってるんでしょ」
「……」
「幽霊が怖くても何でもいいんです。私、浅葱さんの幽霊が見える力に惚れたわけじゃないですから」
「…そんなところに惚れられても困るけどね」
「とにかく!浅葱さんに会わないほうがよかったなんてこと絶対ないですから!」
力説すると、浅葱さんははいはいわかった、と言いながら私の頭を軽く叩く。私がまた口を開こうとすると、小さく笑われた。
「わかったから。ちょっと言ってみただけ」
「ちょっとでそう言うこと言わないで下さい」
「うん、出来たら気をつける」
「ちゃんと気をつけて!」
「うん」
くす、と笑い掛けてくる瞳が、僅かに優しくなった。
…こういうとき、やっぱり浅葱さんに会えてよかったって思います。
そう伝えたら浅葱さんはどうやら照れたらしくて、30分くらい口を聞いてくれませんでした。残念!
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