30.「好き、好き、大好きだよ。」



桜の花がふわりと舞い散る。その中に白銀の長い髪がはえる。ただたっているだけで、こんなに美しいなんて。…私は彼の後姿をじっと眺めていた。


考えごとをする殺生丸は、どうしてかいつも機嫌が悪い。悪いことについてしか考えていないからだろうか。だとするとかなりもったいない過ごし方をしていると思うんだけど、時間をどう使おうが殺生丸の勝手。私はただ彼の邪魔にならないように、じっと彼を伺っているしかない。


ふと殺生丸が振り返り、私を見据えた。意味もなく心臓が跳ねる。けど、どうやら私を怒ろうというわけではないらしい。…その瞳が、少し優しく見えたから。


「……


低い声が私を呼んだ。なに、と答えると、すっとしゃがみこんで顔を覗き込んでくる。


「…お前は、私が好きだといったな。その気持ち…今も変わらぬか」


どこか探るようにたずねる。私はそれに大きく頷いて、最上の笑顔で笑う。…こんな風に笑えるのは、殺生丸にだけなんだよ。そうわかってもらいたくて、精一杯で笑う。


「…好き。 大好きよ、殺生丸」


言葉にするだけ気持ちがこみ上げてきて、彼の首に絡みついた。ふわりと花の芳香に包まれて、驚くほど穏やかな気持ちになる。


彼の心は読めないけれど、抱きしめてくれる手は優しくて、温かい。彼も私を愛してくれているんだとちゃんとわかる。


もう一度好きだよとつぶやくと、彼が少しだけ笑ったような気がした。









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#30
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