「…なんで?」
どーして神様。私が何をしたって言うの?
久々に外で飲んでほろ酔い気分で帰ろうとしたら、お客さん雨降ってますよ、なんていわれて、またまた冗談を、とか言って外に出たら、マジで大降り。うっわ、なんで気づかなかったの?ってか何で今日に限って。バカにしてんですかコノヤロー。
仕方ない、ぬれて帰ろうととぼとぼ歩いていたら、水溜りにはまって足元はグチャグチャ。これは明日絶対風邪ひくな。
そんなことを考えながらようやく家に着いたとき、扉の前に人影があるのがわかった。この雨の中傘も持たずに、ぼんやりと私の姿を見ている、そいつは…
「…銀時」
「よっ」
「よっ、じゃないでしょ。何やってんのこんな時間に」
「雨宿り」
「宿れてねーよバーカ」
つっこみつつ鍵を開ける。全く、いないのがわかったなら帰ればいいのに。
ドアノブに手をかけてひねろうとした瞬間、体がきつく、冷たいものに包まれた。
「…何」
「別にー。何でもねーよ」
「なんでもなくねーよ。着物濡れて寒いんですけど」
「オレも」
「じゃーやめてよ」
「ヤダ」
離すどころか力はますます強まって、腕がわずかに軋んだ。体をよじって逃げようとしたら、獣のように乱暴に首筋にかみつかれる。
「ちょ、ここ外…!」
「…わり、でもムリ」
止まんねェ。
耳元に熱い息がかかる。反対に冷えていく体が冷静さを奪おうとするけど、ギリギリのところで何とか持ち堪え銀時を振りかえる。
…その目は、怖いほど無表情だった。
喜びも悲しみも怒りも、普段の無気力ささえ感じられない瞳。まるで何も感じられないかのように。 何も?
…私のことも?
足元が崩れるような感覚。私は無我夢中で銀時の首に絡みつき、唇を重ねた。それを受け入れた銀時は、私以上に激しいキスをかえしながら家の中に私を押し込む。そのまま床にもつれ込んだ私たちは、狂ったよう互いを求め合った。
私を、感じてほしい。私はそう思いながら、頭の隅で考えていた。
銀時も、同じような気持ちなんじゃないかと。何も感じなくなる自分が怖いんじゃないかと。
うるさかった雨の音は、二人の声に消えてなくなっていった。
2008.04.08 tuesday From aki mikami.