「桜なんて大嫌いです」
と突然言ったLの目は、忌々しげに地上の桜の木に注がれていた。
「…なんで?」
「言いたくありません」
「昔花見をしていたら子供に座り方をからかわれたんですよ」
「ワタリ!」
じろり、とLの視線を食らったワタリさんは、軽く肩をすくめてキッチンへ歩いていった。一方知られたくない秘密を暴露されたLは、いじけているのか怒っているのかよくわからない顔をした。
「…そんな目で見ないでください」
「別に見てないけど」
「…」
「てか、気にしてたんだねー」
「いえ。 …最近の子供は生意気で、その後ひっぱったり押されたりいろいろされたんです…」
「あら、かわいそー」
最近の子供は生意気、にぜひ一票入れたい。けどそんなことより、私はLに反論があった。
「私は好きだよ、桜」
「……どうしてですか」
「だって、私たちがはじめて会ったのって桜の下だったでしょ?」
「……!!」
世界一の名探偵ともあろう人が忘れていたなんて。どうでもいいことは忘れていくというけれど、私との出会いはそんなものか。そういおうとしたとき、Lが桜を見下ろしたまま言った。
「……たった今好きになりました」
2008.03.05 wednesday From aki mikami.