身体が、沈んで行く。
眠りに落ちるときのこの感覚。深く暗い所に、落ちて行く感覚。それは、死を受け入れることと似ている。
攘夷志士の娘として過ごしてきた子供時代、死にかけたことなんて何度もあった。私が直接戦地に赴くことはないけれど、攘夷志士のリーダーの娘、それだけで命を狙われるには十分だったから。
平和を享受する今、布団に潜って考えるのは…銀髪頭の馬鹿な侍のこと。
私を死の淵から引きずりだすのは、いつもあいつの声だった。いつもいい加減でやる気のないあいつが、珍しく余裕のない声で私を呼ぶのだ。
そして私は思う、まだ、死ねない、と。
カチリと鍵の開く音がした。沈んでいた意識が、ぴたりととまる。そして目の前を、夜空のような青が満たし尽くす。水の中を漂うような感覚。
「はー、くそアチィ」
誰にともなくつぶやかれた言葉に、私の意識はゆっくりと浮上していく。
青い水の中を、ゆっくりと。
「おいクソアマ、起きてんだろ」
かけていた布団を剥がれて、足がすぅっと冷える。かけっぱなしにしていた扇風機の風が、身体をすべって寒気を覚えた。
「…起きろよ」
冷蔵庫を開ける音。たぶんいちご牛乳でも飲み始めたんだろう。意識は水の中を漂いながら、水面へと近づいていく。
足音が、近づいてくる。
「なぁ」
甘ったるい匂い。やっぱりいちご牛乳だ。そして少し汗ばんだ手が、服をめくって私の腰に触れる。
水の中から無理やり引っ張り出されるような感覚。こいつはいつもそうだ。私は沈みたいのに、こうやって引っ張り出しては好き勝手振り回す。今も、昔も。
「…」
熱を含んだ声で呼ばれれば、いよいよ。私も水の中には戻れない。
私の頭を大きな左手が包み込んで、唇が、甘ったるい味で塞がれる。息苦しくて目を開けると、うっすらと目を開けた銀時と目が合う。
わざと音をたてて、唇が離れていった。
「やっと起きたかコノヤロー」
「…せっかく寝れそうだったのに」
「銀さん置いてけぼりで寝るなんて許さねえぞ」
「自分ちで寝れやばーか」
「だーから、こっちの方が近いんだっつーの」
「神楽ちゃんが心配するでしょ」
「しねーよ」
覆いかぶさるように私を組み敷いて、私の右手を、銀時の左手がからめ取る。唇が首筋に寄せられて、柄にもなく、身体が熱くなった。
「まだ、寝かせねーよ」
こいつは、どこまでわかっているんだか。たぶんなんにもわかってないんだろう。…別に、それでもいい。
本当に意識が沈むそのときは、こいつと一緒に。そんなことを思う私は、どうかしてしまったんだろうな。
思わず自嘲していたら、笑うな、と言って唇を奪われた。
2013.09.06 friday from aki mikami.